第零章 狼煙 ページ1
ねえ、聞いたかい？
天使が終末を告げたってよ！
つまりどういうこと？
わからないのか？
この世界が終わるってこと！
ラッパの音はしたか？
さあ。地獄からは遠すぎて聞こえなかったよ。
いつの間に決まったんだい？
知らないよ、あいつらの考えている事なんて。
「……なんだ、うるせえな」
人間の魂はどうした？
終末を告げた天使たちは何をしている？
それが宙を漂ったまま、放置されているんだとさ。
なんだって？ じゃあ天使は仕事をしていないのか！？
天使が仕事をしていないということは……
俺たちは何をしても怒られないってことさ！
「……」
今のうちだ！
早く人間の魂を私のものにしてしまおう！
「ああ、でも、そうだな。
どうせ自由にしたっていいんなら、天使に復讐したっていいもんなァ！！」
……！
確かにあいつの言うとおりだ！
今がチャンスだ！ そうと決まれば急げ急げ！
どこかで怒りの雷が落ちる。
そんなもの、地獄の悪魔たちにとってはどうってことはない。
当たったやつは不運なだけ。
今こそ天使に復讐を！
世界の均衡を破壊して、私達の望む世界を！
楽しい世界に生まれ変わるといいね。
馬鹿野郎、そんなものはないよ！
煙が上がる。
地獄の悪魔は堕ちたものを嘲り笑って飛び立っていく。
大きな翼を広げて。恐ろしいほど美しい姿で地上へ這い出るのだ。
地獄の業火の中で一匹、その場に佇む悪魔がいた。
足枷などとうの昔に外れている。知っていた。
「……行くか」
赤髪の悪魔は大きく息を吸い込んだ。
久しぶりに広げた翼が動き出す。
とん、と素足を地面に叩きつけ、一直線に突き抜けていく。
――いってらっしゃい。
誰かの声がした。
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