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「え、カノンちゃんもおててつなぐ?」「いらない」と短い会話が聞こえてきた。気にしないで進むと建物の扉を出てすぐ、非常用階段を二人は躊躇なく駆け上がっていく。建物に固定するための留め具も剥がれかけていて、一瞬ためらうと「ボクがいるから大丈夫さ」と私の手を引っ張った。それもそうだ。
走り出し、非常口の前で二人が止まる。中に入るのではなく、遠くを見ているようだ。
ゆらりと白い尾が揺れる。二人の視線の先にあったのは、私達がみた”天使”が、うろうろと徘徊する姿だった。
「…鬱陶しい」
ぽつりと聞こえた声に思わず視線を向ける。
「もう、相変わらずね」
「だってあいつら、邪魔してくるんだもの。そっちの人間もそうだけど…」
じろりと睨まれ思わずたじろぐ。
「えっと…き、来たって言ってもそこまで近づいてきてはいないですね!」
楽観的な一言に、ぽんと肩を叩かれる。視線だけ向けると、肘置きのようにゼットさんに寄りかかられているのに気づいた。
「何言ってるのカナデちゃん。殺しに来る前に殺さないと負けるよ?」
「えっ」
「それにほら」
――次の瞬間。
先程の地響きが大きくなっていく。
「気づかれたんじゃない?」
異形は翼を広げ、助走をつけている。
飛び立つ気でいるのか。
「ガール! 私のライトを!」
「! は、はい!」
あわててアウターのポケットから黒い懐中電灯を取り出すと、黒く細いリボンが勝手にそれを巻き取っていく。カチンと軽い音がしたと思えば、背後から彼女を照らすスポットライトのように光が降り注ぐ。
日差しはまだない。彼女の前に出来た黒く伸びた影が、やけに色濃く映し出され、揺れ動く。ジンの影は形を変え、元いた場所から動き出し、やがてふたりを囲んでいく。
影を、私達を狙うもう一つの影が重なる。
思わず顔を上げれば、はるか上空に”それ”はいた。
ぐるりと旋回し、獣は垂直に落ちる。
当然それは、私達がいる非常階段を狙って――
「――ォォォォオオオアァァァアアアーーーーー!」
聞くに堪えない唸り声が響き渡る。
「――――――ッ!!!!」
直後、反するように甲高い声が劈く。
真後ろにいたカノンちゃんの声だ。
衝撃に耐えきれず、わずかに天使の体は横に反れた。階段が設置されている、建物の屋根に落ちていく。
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