【企画本編】終末戦記 -零- 【奥宮カナデ視点】 (ページ38)

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「……！！」

　勢いよく上半身を起こす。あれだけ痛みを訴えていたはずの体は何事もなく動く。嫌な夢を見た平日の朝みたいに、冷や汗がとまらない。
初めて出会った天使の、あちこちから生えた真っ赤な目がこちらを捉えて離さない。思い出すだけでも背筋が凍る。なんとか恐怖から目をそらし、首を大きく横に振っていると、視界の端に見慣れたツートンカラーが入った。なんとなく起こすのも悪い気がして目線をそらした。
あのあとなんとか皆逃げ出したらしい。助けてくれた女性達が現れた後、私は気づいたら意識を失っていたようで、途中から何がどうしてここにいるのかもわかっていなかった。

　ふと周りを見回してみるけれど、周りの建物は瓦礫と血で汚れすぎていて何もわからない。立ち上がってもう一度、全体をぐるっと見渡す。
直径10cmほどの穴が5つ、『絶賛上映中！』と謳われた恋愛映画のポスターの上から開けられているのに気づく。保護用のガラスすらも突き破っていて、メインの女優の顔は焼け焦げてなくなっている。学校と自分の家の間あたりでこの映画を放映していたのはどこだっただろう。

　商店街に小さな映画館があったのはなんとなく思い出した。小さいときに連れて行ってもらった覚えはある。言ってしまうのは悪いけれど、あまり人が入ってるような施設ではなかったはずだ。他映画のリーフレット、映画グッズもそこそこに残っている。
ここが商店街の中の映画館だとしたら、本来向かっていたはずの学校への道から外れた場所に避難していることになる。あの時話す時間なんてほとんどないようなものだったけれど、落ち着いている今ならきっと作戦を立てることだって難しくはないはずだ。

そう思って振り返った瞬間、覆いかぶさるように黒い影が視界を覆った。

「おはようございます。気分はいかがですか？奥宮カナデさん」

「……」

え？さっきまで誰もいなかったよね？
ぽかんとしている私に、影の主――長身の男はニコニコと微笑みかける。