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「安心して。まだ他に仲間がいるの」
「！」
「キュル！ そっちの悪魔さんはどうにかなりそう？」
「……うん」
シエラの体が持ち上がる。ドサ、と嫌な音がした。
「ぁﾞあっﾞ……ぐぅ……！！」
幼い少女のような見た目なのに、何の躊躇いもなく彼女はシエラを抱えて見せる。抱えたはずみで、ちぎれかけていた羽根が片方、地面に落ちた。
「シエラちゃん……！」
「っ……大丈夫、すぐに治るから……」
治る、と言ったシエラちゃんの声は弱々しい。不安になった次の瞬間、天使のクチバシが動き出す。また、と思った瞬間、シエラちゃんと真っ白な女の子の姿が消える。
ズン、と強い衝撃と鈍い音。同時に、あの子はシエラちゃんの羽根を持ち、鳥の脳天に尻尾をめり込ませていた。
「手を、出さないで。」
凍てつく氷のように冷酷に、それでも地の底のマグマのように湧き出る怒りの声がする。
「ナイス！ 今のうちね！」
合図と同時に走り出す。ズズ、と地面を這いずる音がするけれど、同時に二度目の打撃音がした。顔をもう一度上げてみれば、シエラちゃんを抱えたままの女の子――確か、キュルと呼ばれていたような。彼女は息をつく暇も与えさせないと言わんばかりに、天使の頭に打撃を与え続けていた。
私が手に持っていた懐中電灯を起点に、女性の影がぐるりと渦を巻く。
人を一人抱える腕とは別の方に、拳銃を携えていた。鳥の頭はすでに撃沈していて、逃げる余裕は十分にある。もう一度天使の方を見た。
獲物を捉えんばかりに振るわれる、片方の前脚。
それは唯一大きな肉球を持つ、ライオンの脚と同じ形状だった。
……？
……肉球？
疑問が生じた次の瞬間、ぐいっと視界が揺れる。
いつの間にかその身は、まだ顕在している建物の影に入っていた。
「……ガール？ どうかしたの？」
「……」
あれは、なんだろう。
人の、顔？
そもそもあれって人なの？
痛む腕を抑えて、そっと天使の方を覗き見る。
けれど、距離が遠くて確認できない。
動くたびに痛くて、それが限界だった。
「無理は禁物よ。アナタの仲間と合流してから行動しましょ？」
「……は、はい……」
女性と契約した悪魔が、シエラを抱えてやってくる頃。
ただ頭の中には、奇妙な表情が浮かんでいた。
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