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「――奥宮!! 離れろ!!」
すんでのところで、今度は私がシエラを抱きしめて右に飛ぶ。後ろの建物が無惨に音を立てて崩壊していった。地面に残った礎にはえぐられたように爪の跡が残っている。
そのままシエラと私の体が地面に転がり落ちる。私の背中が、硬い何かにぶつかると同時に回転は止まった。怪我は……とくにしていない。天使の赤い眼はこちらを向いたままだ。また来る、でも次はどうする?
契約で得た能力を使う? でも能力って具体的にどんなものだったっけ。悩んでいる暇はないのに、どうして気持ちばかり焦ってしまうの。起き上がろうとして、ずきりと足が痛んだ。気づけば足首が腫れ上がっている。
「っ……おい!! お前の相手は俺だ!!」
獣の背中側からメイジくんの声がする。背中の羽から飛び出た目玉だけがそちらの方を見ていた。次の瞬間、また地震のような振動が響き――
右肩から生えた、鳥の頭が姿を消す。
ズン、と骨にしみる衝撃が連続する。一体どこへ、そんなことを言わずとも、立ち込める瓦礫の粉末が屋根の上まで舞い上がっていた。
「――森永く、んぐっ」
「叫んじゃだめだ、キミも巻き込まれる!」
シエラに体を抱きかかえられる。もう一度シエラが飛び立つと同時に、人の形をした頭部がこちらを見つめた。ぞわりと背筋が凍る。
人、鳥、獅子の頭を持つ合成獣。胴体は獅子だけど、二対の大きな羽根と、一回り小さな一対の羽根が尻あたりに生えている。自然に生まれたものではない見た目。これ、本当に天使なの? シエラが天使だというのなら、きっとそうなのだろう。
メキ、と頭上から金属の折れる音がする。避けようとして頭を下げたところで「カナデちゃん!」と名前を呼ばれた。
「せっかくキミも戦えるようになったんだ、それを掴んで離さないで!」
「それっ……って、これ!!?」
電気はとっくの昔に切れているよ、と補足される。違う、そうじゃない。
言われたとおりに電線をつかもうとして、すんでのところで風に煽られる。不自然な風、と感じたときにはもう遅い。
空に赤い目が浮かんでいた。
大きく影が差して、私達を覆う。
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