【企画本編】終末戦記 -零- 【奥宮カナデ視点】 (ページ22)

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そこにあったのは、いつも一緒に過ごしてきた、愛する二人の死体だった。
女性の一回り小さい体に、覆いかぶさるように男性の遺体が上に乗っている。男性の方は背中に無数の穴が作られていた。最後に一つ、大きな穴が、体の中心にぽっかりと空いている。それは下にいる女性も同じようで。
二人の血液は床に広がり、スイカ柄の玄関マットも赤色に染めていた。写真を飾っていた壁にも、明かりのついた天井にも、無差別に穴が空いている。

最後に二人は何を思ったのだろう。父は、母は、外へ逃げようとしたのだろうか。

「おーい奥宮、そっちは……ッ！！」

リビングから侵入するはめになった森永くんが、上半身を乗り出してこちらを見る。注意するよりも前に、間近で惨状を目にしてしまい、彼は固まってしまった。

静かな時が流れる。

私は一歩、踏み出した。
借り物のローファーを脱いで、血に染まった廊下を歩く。白い靴下に、じわりと赤黒い液体が染まっていく。それでもよかった。

「お、おい、奥宮、さん……」

ふらふらと、二人の近くに歩み寄る。
中心に空いた穴がはっきりと見える。皮膚、肉、血管、神経、骨。すべてが丸見えになったただの肉塊。しばらくそれを見つめたあと、私の脚は震え出して、ついに力が抜け落ちた。
この世界に、もう両親はいない。普通のどこにでもあるような、私の家はない。

けど、なんでだろう。
こんな、躊躇なく二人を殺したはずの天使に、怒りも憎しみも感じない。
そこにあるのは、ただ一つの疑問だけだった。

「……ねえ、なんかあるよ？」

ゼットさんの声がする。
視線をずらすと、母の遺体の手に、何かが握りしめられていた。
手をのばす。それを掴み取る。「DIARY」と書かれた桃色の手記に、黒のボールペン。
確かこれは、お母さんがときどきつけていた日記帳だ。ぱらぱらと、ページを捲る。年月日と、その日起きた事を一言だけ綴る、もはや日記と言っていいのか分からない、ただの記録が書かれていた。

『××××/8/8 買い物、掃除、洗濯、いつもの土曜日
　××××/8/9 カナデが友達とおでかけ

なぜ？』

……ああ。
やっぱり、私、間違ってないよ。こう思うのは当然なんだよ。
誰かがその手記を覗き込もうとしていたので、勢いよくそれを閉じる。そのまま立ち上がり、廊下の先の階段を登ろうとして、不意に手を掴まれた。