君と、恋の話がしたい。II (ページ1)

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好きな人ができた、と伝えられたあの日。
俺は密かな想い出として大事にしていたあのキスを不意に思い出した。
あの微かなトキメキは今になると苦しくて、切なくて、胸を締め付けられる程の爆弾になった。

あの時俺はなんて答えたんだっけ。
ああ、そうなの。とかそんな感じだったと思う。
もう覚えていない。思い出したくもない。

こんな事になるのなら、あのキスをした日。
ちょうど一年前くらいじゃないか。
いや、あれは年が明けてからだったっけ。
12月だったかもしれない。
ああもうそんなのどうでもいい。
とにかく、あの時全部曝け出してしまえばよかったんだ。
好きだと伝えてしまえば良かったんだ。

あの日、彼女とキスをした事はなかったことにした。
変な理由をつけて誤魔化しておいた。

だって、それが正しいと思ったから。

彼女には彼女の向き合うべき問題があった。
それは何にも代え難い尊い彼女の生命に関わること。そこに俺なんか介入しちゃいけなかった。
わかっていたのに、少し遅かったかな。

それに何より、俺は少し怖くなった。
あの時、彼女の病気の事を忘れるくらい俺は勝手に夢中になっていた。
だけど確かに病気だというそれが妙にリアルに感じてしまったというか。何故かはわからないけど。
彼女が居なくなってしまうという現実を突きつけられたような。
居なくなってしまえば俺には何にも残らなくなるような気さえした。

だからなかったことにした。
全部、なかったことにしたかった。
けど。

けど、それはやっぱり俺にとっては特別で何を捨てたってそれだけは消したくない大事なものでもあった。

随分と勝手だけど。随分と気味が悪いけど。
その瞬間も感触も俺だけが密かに大切にしたかった。
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