一夜だけ一緒に

そっくり ページ45

.







壱輝が生まれて数週間後、私たちは病院を退院した




そして気付いた、壱輝は壱馬に似ているということに


仔犬みたいだけどどこか男を感じる瞳に

スッとした鼻に

薄すぎず厚すぎない唇に

キリッとした眉毛

笑ったときの細くなる目や、笑窪に



そっくりで、壱輝を見るたびに泣きそうになる


覚悟はしてたんだ、この子は壱馬に似るっていう覚悟

だから泣かないように、息を止めて涙を堪えて、絶対に涙が出ないようにしたのに








昨日、壱輝が笑った顔を見ると、泣いてしまった。


その顔が壱馬にしか見えなくて、思い出すだけ思い出して、それで涙は溢れ続けて。





壱輝が不思議そうに私を見て、パチパチと私の頬に手を伸ばして撫でるようにたたく。

涙を拭き取るようにそっと、優しく。





これから壱輝が大きくなって、パパのことを、壱馬のことを聞かれたらなんていえばいいんだろう


壱輝のパパはママとは結婚出来なかったんだよって

壱輝のパパはママと一緒になっちゃいけない関係だったのって

壱輝のパパはママの間にできちゃった子どもなんだよって

壱輝のパパは壱馬って名前だよって

壱輝のパパは壱輝にそっくりだよって





そんなこと、言えるわけないじゃん



そんな未来のことを考えてると余計に不安で苦しくて怖くなって


壱馬がここにいればな、そう思った。



でも突き離したのは私で、今さらどうにも出来ない。







"苦しいときこそ笑え"



いつの話か聞いた言葉


こんなのデタラメでしかないことを私は知った。




苦しくて苦しくて、笑おうと思っても笑えない

笑い方もわからない



【大事な人との別れ】



思ったより辛いこと



人間、これだけが揃えばもう忘れるよ、笑い方なんて



人前だと偽ってでも笑えるのに、いざ不安になると笑えない

それに加えて不安になるのはいつも１人のとき



心にこもりきった何か重いものを出したいのに、出せない





あぁ、こんなに苦しくなるくらいなら、泣きそうになるくらいなら


壱馬に出会わないほうがよかった


壱馬と繋がらなければ、

こんなにそっくりな子どももできなかった



壱馬や壱輝が悪い訳じゃない


悪いのは私

全部、全部、私









早く、光が欲しい



.

会わない→←このままで

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す