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時計を見ると、もうそろそろ夕方と言ってもいいくらいの時間だった。
「A、腹減らねぇ？」
「……全然減らなかったんですけど…、今、樹さんに言われて…
減ったかも、」
思わず笑い声が出て。
「晩メシ前に、何か軽く食う？」
オレンジ、あったべ？と、ベッドの上で並んで座りながら顔を
のぞきこむ。
「俺、剥いてやるよ？」
「……じゃあ…オレンジ、食べます、」
「おっけ。ここで待てる？」
「………………はい。」
少しの沈黙の後の返事。
「わかった、一緒に行こ。」
Aの表情を見てそう言うと、表情は一気に安心した顔だ。
ソファで待つAに声をかけて、オレンジを盛った皿を
手に、また寝室に戻る。
「樹さん、包丁使うの上手ですね、」
と、だいぶ落ち着いた表情になって、俺を見ていた。
「美味しかったです。ありがとうございました。」
「どういたしまして。」
空になった皿はサイドテーブルに置いてベッドにふたり並んで座る。
ヘッドボードにもたれながら、いろんな話をした。
自分の正直な気持ち。
お互いに深読みしすぎていたこと。
ふたりとも不安定になっていること。
いつかは、数日間朝から晩まで丸１日離れていても、平気になろう、という約束。
飛行船に乗って、旅行に行こう、という約束。
それから。
Aが大学を卒業したら。
俺は時計を直して。
Aは村の子どもたちに数学を教えて。
Aの家と、俺の家を行ったり来たりして。
のんびり暮らそう、という約束。
「どこにも行かないでくださいね。」
「行くわけねぇだろ、こんなに好きなのに。」
やっぱり少し血がにじむ包帯の上に
キスを落として。
ヘッドボードとAの間に半分無理矢理入り込んで
後ろから抱きしめた。
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作者名：月華
| 作成日時：2023年5月15日 0時
