たとえばここが、世界の果てでも３ (ページ41)

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自分でも、最近ものすごく樹さんに甘えるようになった自覚がある。

「………いいのかな。」

チョークを持って部屋の隅に置いた黒板の前に立ったまま、ひとりごと。

「なにが？」

声が聞こえて振り返ると、樹さんがドアに寄りかかったままこちらを
見ている。

「……いえ、その、」
「…ん？」

部屋に入ってきて、私の側に立つ。
私が論文に使うためにいろいろな式を書きなぐっている黒板を見て、

「………オマエ、天才なの？」

と口を半開きにしている。

「いえ、天才ではありません。」

王立大学に入れるような学力もないのに、天才だなんてそんなわけがない。

「これ、何？」

えーと、と、わかりやすいように簡略した説明をすると、

「………わかったような、全然わかんねーような。」

困ったような、眉を下げた笑顔を浮かべて私を見ている。

「……オマエ、すげーな。」

机の反対側の壁を8割ほど占領している黒板。
そこに、所狭しと書きなぐられたいろいろな計算を見ながら、樹さんが
呟いた声が、心なしか寂しそうに聞こえたのはどうしてだろう。

　………俺のエゴで、こいつを数学者にしてやれない。