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ランチをしたカフェで、小さな焼き菓子をいくつか買って、
店を後にする。
オートモービルのハンドルを切りながら、A、と声をかける。
「なんでしょう、」
「あのさ、こっちに帰って来たときはさ、思い切って全部
外食にしねぇ？」
俺の言いたいことがわかったのか、「そうですね、」という
明るい声が聞こえる。
「…まぁ、家で果物食いたい、とかワイン飲みたい、とか
そうなっちゃったらまた話は別なんだけど。」
「そのときは…、私、ひとりで市場に行きます。」
もう、樹さんに傷ついてほしくないんです、と、さっきとは違って
少し沈んだ声が帰って来る。
「ワインは、行きつけのリカーがあるから、そこに行くし、
心配すんな。どうしても市場に行かなきゃいけない用事が
できたら……そのときのメンタル次第。」
「わかりました。」
樹さん、と名前を呼ばれて。なに、と返せば。
「……あの、わがままを言わせていただければ、」
「ん？」
「年越しは……その、ふたりで、したいのですが、」
窺うような声色で恐る恐る口にした、めったにない『わがまま』。
わがまま、というにはあまりにもかわいいそれに、頬が緩む。
「いーよ。」
「え、」
「だから、いいって。」
「よろしいのですか、」
だってジェシーさんたちと、と言いかけるから、前を見たまま
Aの頭に右手を載せる。
「言ったろ、Aと一緒にいられるなら、なんでもいいし、
何がどうでもいいって。」
ブレーキをかけて、道を横切る人を見送りつつ頭に載せたままの
右手をわしゃわしゃっとして、顔をのぞきこむ。
「こんなの、わがままのうちに入らねぇよ。」
そう言って、アクセルを踏む。
「ありがとう、ございます、」
ぎこぎなくお礼を言って、嬉しそうな気配を漂わせているA。
家に着いて、Aが降りるのに手を貸して。
家の鍵を開けながら、「じゃあ、年越しは何する？」と聞くと。
「樹さんに、たくさん甘やかして欲しいです、」
と少し恥ずかしそうに微笑んでいる。
「………ベッドで迎えるってこと？」
と、我ながら悪い顔で笑ってんなー、と思いながら聞いてみたら。
真っ赤な顔で、「ちが、そういうのでは、違います、」と
うろたえていた。
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作者名：月華
| 作成日時：2023年5月15日 0時
