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手をつないで、黙ったまま家までの道のりを歩く。
ドアを開けて、家の中に入れば、Aが開口一番「申し訳
ありませんでした。」と呟く。
「…なにが？」
「私が、果物を食べたいなどとわがままを言ったばかりに、」
「A、」
「はい、」
「俺たちは、お互いがちゃんと相手のことをわかってればいーんだよ。」
「…はい。」
手をつないだまま、階段を昇って行く。
「だから、何も気にすんな。」
「……でも、」
「A。」
遮るように名前を呼ぶと、ビクっと体を震わせて俺を見上げている。
「…おいで。」
階段を上がりきったところで、腕を広げる。
腕の中に飛び込んでくるときに見えた、泣き出す寸前の顔は、もう
見慣れてしまった表情で。
「うぉ、」
思ってたよりも勢いがあったから、Aを抱き留めたまま、
廊下に尻もちをつく。
それでも、Aの両腕は俺の背中に回されたままで、
樹さん、と涙混じりの声で俺の名前を呼ぶ。
「…ん？」
「樹さん、」
ひたすら俺の名前を呼ぶAに、なんだよ、と笑いながら返して。
胡坐をかいたところに横向きに座らせて、両腕を掴んだら俺の首に回させる。
きゅ、とAを抱きしめると、顔を胸元に埋めたまま、
「私、こんなに甘やかされたの、初めてです。」
と呟いている。
「そぉなの？」
「はい、だから……どうしたらいいか、わかりません、」
「なんだよそれ。」
顔のにやけが止まらない。
そのままAを固く抱きしめて、そーゆーときは、と言いながら
Aの顔をのぞきこんで。
「どろっどろのちゅーでもされときゃいーから。」
それだけ言って、返事も何も返すことをさせず、『どろっどろのちゅー』をしてやる。
廊下には、ふたりの呼吸と、甘い水音が響いて、時々Aの鼻から抜ける
甘い声がする。
「夜までまだ少しあるし…。」
「んぅ、」
ベッド行く…？
唇を離した隙に、そう囁くと。
Aは、抱き着く腕に力を込めて、俺の質問に無言で『イエス』の答えをくれた。
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作者名：月華
| 作成日時：2023年5月15日 0時
