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オートモービルが向かったのは、軍の基地方向……ではなく、基地そのものだった。
基地のゲートには、兵隊さんがふたり立っている。
樹さんはそこでオートモービルを止めると、いつの間にか首にかけていたIDを見せた。
慌てて敬礼をする兵隊さんに、樹さんが無言で手を挙げてオートモービルを出そうとすると、
「隣のお連れ様も身分証明書の提示をお願いいたします。」
と敬礼をしたまま告げられる。
「あ？いいだろ、俺の連れだぞ。」
「いえ、そういうわけには、」
樹さんが眉間の皺を深くしたので、慌てて声をかける。
「あ、あの、学生証、でもよろしいですか、」
そう言って、急いでバッグの中から学生証を取り出して見せた。
その学生証を確認して、兵隊さんはオートモービルの前からずれて通してくれる。
少しだけ機嫌を損ねてしまったようだったけど、私の学生証を横から見た樹さんは
「…オマエいい大学行ってんだね。」
と、優しい顔をしてそう言った。
敷地の中をしばらく走ると、寄宿舎があるエリアにたどり着いた。
その一角にオートモービルを停めて、小さな建物に向かう。
樹さんは、ドアをノックすると、返事が来る前に「おーい。ほくと〜。」と言いながら
中に入って行く。
「え、いいんですか、」
ドアの前でおどおどしていると、中に入った樹さんが振り返って。
「何やってんの。いーから来いって。」
とおいでおいでしてくる。
「………ぇと……お邪魔します、」
そう言って足を踏み入れると。
「相変わらず勝手だね。」
そう言いながら、整った顔の男の人が出てきた。
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作者名：月華
| 作成日時：2023年3月28日 1時
