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朝。
自分でもびっくりするほどすっきりと目が覚めてみれば、隣には
落ち着くぬくもりがあった。
閉じた本の間には両手の親指が挟まっていて、寝落ちしたのがわかる。
体を横向きにして向き合って眠っていたらしく、目の前にはまだ
すうすうと寝息を立てているA。
読んでいたところがわからなくならないように、そっと本を引き抜いて
栞を挟んだ。
頭の上に置いてある時計を手に取れば、起きるのにはまだ少し早い。
寝起きでうまく動かない頭のまま、Aを抱き寄せて、もう一度目を閉じた。
ごつ、という鈍い音と、「…いっ……！」といううめき声で目が覚めたのは
それから1時間ほど経った頃だった。
「……A…？」
「ぅあ、樹さん、申し訳ありません、私…！」
後頭部を押さえて涙目になっているところを見ると、どうやらどこかに頭を
ぶつけたんだろう。
「ぶつけた？ダイジョブ？」
体を起こして、後頭部に手をやる。
「だい、じょうぶ、です、それより、申し訳ありません、せっかく眠ってらしたのに、」
「…いや、二度寝だったから。」
ヘッドボードの上にある棚を指させば、そこにはAの手から引き抜いておいた
読みかけの本がある。
触れたままの後頭部をそのままに、顔をのぞきこんで掬い上げるようなキスをひとつ。
ぶつけたところを撫でてやって、そのまま抱きしめた。
「朝メシ。どっか食いに出よ。」
「あ、はい、」
「この家、食うもんなんもないからさ。ワインとチーズくらいしか。」
別に、お前んちに帰るまで全部外食でもよくね？と、抱きしめたまま聞いてみる。
「…そうですね、ちょっと贅沢ですけど。」
「ダイジョブ。たまにはゼータクしよーぜ。」
俺ら、年金もらってんのに慎ましく暮らしすぎだよ、と言いながら髪を梳いてやる。
「着替えてきな、出かけよ。」
もう一度触れるだけのキスをすると、ふたり揃ってベッドから抜け出した。
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作者名：月華
| 作成日時：2023年3月28日 1時
