たとえばここが、世界の果てでも (ページ25)

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「……いないです、おつきあいしてる人も、好きな人も。」

ここに来たときと変わらない、感情の波が少ない、穏やかで小さな声。

その言葉につられてAの顔を見ると、Aも同じように、下を見ていた。

「高校に通っていたときには、いました。おつきあいしてた人。」

でも、大学2年生のときに、戦地に行ってしまいました、と小さく話す。

「父は帰って来ませんでしたが、彼の体は帰ってきました。もういないんだ、って実感しました。」
「………A…。」
「ずっと、彼のことは……忘れられませんでした。」

だけど、と、言って、Aが顔を上げる。

「今は……樹さんと一緒にいたい、と、思っています。」
「………俺も。」
「…え…？」
「俺は、大切な人がいたことなかった。」

黙って先を促すA。

「だから、よくわかんねーんだけど。……Aには……そばにいてほしい、と……思ってる。」
「……樹さん…。」
「…大学。」
「…はい…。」
「ここから遠いよな。」

地元の町の名前、知らないくらいだし、と、確認する。

「はい。結構、遠い、です。」
「これからどうするか。明日から、考えよ。」

そう言って、右手で頬を撫でると。

「冷たくて、気持ちいいです、」

と、穏やかな目をして、頬を摺り寄せるAがいた。