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部屋の中が明るくなって、目が覚める。
どうやら、久しぶりにメンタルに大きな打撃を喰らった昨夜は、
ソファに座って泣き言を言いながら寝てしまったらしい。
凝り固まってしまった体をほぐそうと、背もたれから体を起こすと。
「………A…。」
こちらに体を傾けて、同じように背もたれに体を預けたAが、すぅすぅと寝息をたてていた。
触覚のない自分の右腕に目をやると、その先端はAの左手を握っていて。
その左手は、同じように俺の手を握り返していた。
……そう言えば。
「………夢、見てねぇな…。」
久しぶりに、夢を見ない夜だった。
気がつけば眠っていて、朝まで目を覚ますことなく眠り続けた。
俺たちを目当てに街角に立つ女たちも、そうでない、ここで暮らす普通の女たちも。
かなり割がいいだろう金を渡して、一晩を共にした。
気休めとは言え、誰かに与えられる一種の癒しで、浅い眠りだったけれど朝まで眠れたこともあったし、
その逆ですぐに目が覚めたこともあった。
けど、昨夜は。
「…A。」
自由な左手で、Aの肩を揺さぶる。
「……んーん…。」
「A。起きろ。」
もう一度声をかけて、肩を揺さぶると。
「………ん…？」
うっすらと目を開けるA。
「体、痛くね？」
ゆっくりとその目の焦点が合ってきて、視線が俺を捉える。
「…え、樹さん…？」
「ん。」
おはよう、と言いながら、近い距離で寝ぼけた目元を撫でてやると、途端に目が大きく見開いて。
「お、おはようござ…、え、私、昨夜、あの、」
みるみるうちに顔を赤くして、うろたえている。
繋がれたままの右手を軽く持ち上げて、
「手。握っててくれたの？」
と聞いてみれば、ますます顔が赤くなる。
「ぁの、なんと申しますか、樹さんが眠ってしまって、その、気がついたら
手が握られていて、あの、なぜかはわかりませんが、放してしまうのはよくない気がして、」
空いている右手で真っ赤になった顔を覆っている。
「……A。」
名前を呼んでみれば、なんでしょう、と蚊の鳴くような声が応える。
「ありがとな。」
「………ぇ…？」
「本当に何年かぶりに、熟睡した。」
体はあちこちギシギシしているが、めちゃめちゃスッキリしている。
「メシ、作って。」
そのおかげか、いつもはほとんどない食欲が少し湧いているのがわかる。
Aは、ぎこちなく口角を上げて。
「はい。」
と答えてくれた。
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作者名：月華
| 作成日時：2023年3月28日 1時
