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作業机に座って、眼鏡をかける。
時計をひっくり返して中身を見てみれば、いくつか部品を交換すれば動くようになりそうだ。
一度蓋を閉めて、振り返る。
「……どう、でしょうか…。」
「直ると思うよ。部品を変えれば。」
「本当ですか、」
「ただ、すぐは無理。必要な部品をそろえないといけないし、ひとつふたつじゃなさそう。」
中身もきれいにしてやらないと、と伝える。
「これ、預かってい？」
「え、」
「てゆーか、預からないと直せない。」
月単位かかる、と言うと、逡巡するような表情をしたあとで、「お願いします。」と頭を下げた。
「………じゃあ……できあがったら、連絡するわ。」
そう言ってみたら、
「……あの、もし、田中少佐が…、」
とか言い出すから、「その呼び方はちょっと。」と遮る。
「…え、あっと、」
戸惑う彼女に、またごくごく小さく笑んで。
「……もう、退役してるしね。」
と告げると、
「…では、なんとお呼びすれば…、」
心底困っているようで。
「軍人時代の肩書がついてなければ、なんでもいいよ。田中さんでも樹さんでも。」
そう言ってみる。
「………まあ。部下は『田中少佐』だったしね。親父さんも、家でそう言ってた？」
「………はい。」
「だよな。……で、なに？」
「あ、あの、もし、よろしければ、その、」
「……………？」
…………助手、として、通えないでしょうか、と……呟いた。
「……え、キミ……名前なんだっけ、」
「Aです。」
「うん、Aさん。どういう肩書のひと…？」
「学生、です、あの、大学で、数学の研究室に、」
「……１ヶ月以上ここに通えるひと…？」
「今は、夏休みで、９月から進級します。あの、」
「………突発的な雑用しかないんだけど。」
「そうしましたら、あの、邪魔にならないところで、勉強してますので、あの、」
「……………そんなに急いでんの？時計？」
縋り付かんばかりに食い下がってくるのを不思議に思い、聞いてみた。
「止まってるんです、父が逝った瞬間で。」
思わず盤面を見る。
つい口をついて出た「ホントだ、」という小さな声に、Aは泣きそうな顔で俺を見る。
「………やっぱり、田中少佐だったんですね、父の最期に立ち会ってくださったの。」
掠れた声で、うん、と答えるしかできなかった。
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作者名：月華
| 作成日時：2023年3月28日 1時
