たとえばここが、世界の果てでも (ページ32)

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「ひとまず、週末にAが帰るときには俺も一緒に行く。」
「え、」
「言ったろ、離れたくない、って。」

髪を梳いていた手を動かして、指で頬を撫でる。部屋の壁に設置された
Ｌ字型のベンチに座って、手を伸ばせばすぐそこにお互いがいる。

「金曜日の朝、ここを出て、一旦俺の家に戻ろ。」
「はい。」
「んで、とりあえずAが大学を卒業するまで、お前の田舎に住む…
ってことで…いい？」
「よろしいのですか、」
「もちろん。何か月かおきに、こいつのメンテナンスがあるから、俺は
時々ここに戻ってくるけど。」

こいつ、と言いながら、右手をわきわきと動かしてみせる。

「なるべくAが長い休みのときにするから。一緒に来てもいいように。」

少し距離を詰めて、触れたままの頬を固定する。

軽く触れるだけのキスをすれば、Aの目が嬉しそうに細められた。

そのまま左手を動かして、頭にぽふっと手を置く。
さらさらの髪を梳いて、耳に髪をかけた。

食事の後、風呂を済ませて戻ってくると、ランタンの近くにひとり用の
ソファとオットマンを移動させて、本を広げているAがいた。

「…A。」

声をかけると、顔を上げて「樹さん、」と表情を緩める。

「Aが使う部屋に、案内すんね。」
「はい。」

Aが立ち上がって、部屋の隅に置いてある小さなトランクを手に取る。

こっち、と階段を上がって２階へ向かった。