手を伸ばせば届く距離１ ページ16
「どうぞ。」
Aちゃんがドアを支えてくれて。俺はすっかり来慣れているAちゃんの
部屋に上がりこんだ。
「紅茶でいいですか？」
キッチンでケトルに水を入れているAちゃんに、「おかまいなく。」と返す。
すると、Aちゃんは「紅茶でいい」と理解してくれたらしく、棚から小さな
紅茶の缶を出していた。
「手伝うよ。」
キッチンまで行き、冷蔵庫にもたれて声をかける。
「え、いいですよぅ。」
「いいからいいから。これ、出せばいいの？」
Aちゃんが出そうとしている、少し高いところにあるカップを取り出す。
「はい。」
「ありがとうございます。」
「後は？」
「あ、もう平気です。」
トレイにカップとティポットを載せて、持ち上げようとしたAちゃんをそっと
脇に押しやる。
「え？」
「僕が運ぶよ。」
「そんな、いいですってばぁ。」
「いいからいいから。」
Aちゃんがトレイを奪い取ろうとしたので、「落としちゃうから。」と言って
半分無理矢理そのまま運んだ。
リビングのテーブルの上に、カップを置く。少し待ってからカップに紅茶が注がれる。
ダージリンの香りが部屋に漂った。
ソファに並んで座り、紅茶を一口。どちらからともなく一息つく。
「どうでした？レース。」
「ん？楽しかったよ。」
「お疲れ様でした。」
「いえいえ。」
「最近、ちょっと忙しかったみたいですよね、伊沢さん。」
「そうだね。寂しかった？」
「え？」
「僕は寂しかったよ、Aちゃんに会えなくて。」
「私も寂しかったです。」
にこにこ笑って答えるその表情は、絶対にわかってない。
ホントにありえないよね、この鈍さは。
俺はといえば、さっきからあまりに近くて、手を伸ばせばすぐ届くこの距離に
ものすごく緊張してるっていうのに。
「Aちゃん。」
「なんですか？」
「はい。おみやげ。」
上着のポケットから小さな包みを取り出して、Aちゃんに渡す。
「急いで渡したくて。」
「え、帰京してすぐにそんなわざわざ来てくださらなくても…。」
「…………なんで？」
「だって、いくら一泊されたとはいえ、疲れてますよね？」
「…………。」
なんで俺はこの子を好きなんだろう、と今更ながら不思議に思う。なんで気づかないんだ！森山A！思わず呼び捨てしちゃったけど！
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月華(プロフ) - てるさん» コメント、ありがとうございます！応援してくださるだなんて…！がんばります。これからもよろしくお願いします。 (2019年1月29日 22時) (
レス) id: 333e4733fe (このIDを非表示/違反報告)
てる - このお話大好きです、、！！応援しております！ (2019年1月29日 21時) (レス) id: d6f680dd65 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月華
| 作成日時：2019年1月27日 22時
