とある男の話 1−2 ページ3
……そして、幾年の月日が流れた。
俺の左腕は鬼に喰われている。
仕留め損ねた鬼が潜んでいて、弱そうな俺を狙ってきた。
スパッと綺麗に斬られた傷口。念入りに爪を研いだんだろう。もっと美味そうに喰えよ、クソが。
血濡れの鈍く光った爪が迫り、俺は目を閉じた。
だが、死は俺まで届かなかった。
一人の、小さな子供に助けられたからだ。
信じられなかった。あの小さい体で、数倍はある鬼を殴り、地面に叩きつけていた。
鬼が死ぬまでそんなに時間はかからなかった。すぐに朝日が登り、抑えつけていた鬼が灰になった。
すると子供は俺の元へやってきた。普通の、髪の綺麗な女の子だ。
目を疑ったよ。はじめは鬼同士が俺を喰うために争ってるのかと思ったからな。だが陽の光で消えたのはあのデカい鬼だけ。紛れもなく、この子供は人間だった。
小さな手が俺の腕に翳される。暖かい光が放たれると、とめどなく流れていた血が止まった。
俺を見つめるてくる丸い瞳。子供にしてはひどく強い目をしていたのを、よく憶えている。
「助かった、ありがとう。……お前さんどこから来た」
「遠いところです」
「親は」
「いません」
「行くところは」
「ありません」
希望を見つけたと思った。
この子がいれば、鬼殺隊の大きな力になる。
「お前、最終選別を受けてみないか」
お館様に失礼を承知で頼んだ。快く受け入れてくれた。
まぁ結果は……期待以上だったよ。
その子供は最終選別を合格した。生存者は今までで一番多かったらしい。もっと周りに自慢すりゃよかったな……俺が見つけたんだぞって。
なんとまぁ、あいつは柱候補にまでなるほど強かった。が、柱にならずに自分から隠になりたいと志願したそうだ。変わったやつだが……俺は歓喜したよ。
戦える隠は、恐らくあいつが初めてだ。
それで、今となっては歴代で最強の隠の頭領。
ほんとに、俺は鼻が高いよ。
あいつなら隠の……鬼殺隊の未来を変えてくれる。
俺はそう信じてる。
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作者名:爽 | 作成日時:2021年5月10日 20時