Jupiter

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「こんな術で私は捕まらない。……まさか、これが限界なんて言わないでしょうね？」

「生意気なっ！……お前は暗い川底に沈めて、二度と空気に触れさせんようにしてやる」

鬼の額には青筋が浮かびあがっていた。
両の拳をぐっと握り、下からゆっくりと持ち上げる。

すると、川の水が鬼の周りをぐるぐると渦巻き始めた。水かさは増していき、やがて上流からの水は流れてこなくなる。

大量の渦潮は宙に浮き、干上がった川に鬼が立っていた。鬼はニヤリと笑みを浮かべ……手のひらを突き出す。

「……ふふふ、これなら逃げられないだろう！血鬼術螺旋渦絡(ﾗｾﾝｶﾗｸ)！！」

「まずいっ！ A！！」

「っ……！」

水は凄まじい勢いで、Aを中心にして逃げ道を塞ぐように渦巻く。頭上まで覆われ退路を塞がれると、ついにAを飲み込んだ。

杏寿郎は巨大な水の渦の中で、黒い隊服が激しく動いているのを見た。
痺れる体を奮い立たせ、Aの元へ向かう。

「この血鬼術から逃れた者はいない！息もできず身動きもとれないだろう？ふふ、お前は死んだも同然だ！」

「くっ……(死なせない！必ず助ける！！)」

「お前まだいたのか？しぶといやつだ。待っていろ、こいつを殺してからお前も同じところへ行かせてやる」

腕にうまく力が入らない。日輪刀を握るのもやっとだった。
……Aを死なせては行けない。杏寿郎ははっきりとわかった。Aはこれから沢山の人を助ける素晴らしい隊士だと。

「(なんとか水の勢いを殺し、Aが逃げ出せる隙を作る！)……炎の呼吸肆の型成炎のうねり！！」

渦が回る逆方向へ技を出す。
体力の限界を超えた杏寿郎の、最後の技だった。ついに杏寿郎は膝をつき、日輪刀から手を離す。

Aを助けたい一心で放った一撃は、僅かだが確かに水の勢いを殺した。

……その渦の中で、Aの目が見開かれる。