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「な、なんだ、ただのコケ脅しか……ぐあ!?」
言った途端に血しぶきが舞う。
全員がそちらを振り向いた。
"うそだ、さっきまで廊下の方から戦闘音がしてたのに……!?"
笠をかぶった細長い男が、開け放した窓に立っていた。
いつの間に、そんな全員の心を知ってか知らずか、黒笠は笑う。くつくつ、喉の奥で噛み殺すように。
「いい……命知らずのバカどもが……ひい、ふう、みい……14、5人か……思ったよりは少ないな」
笑いを含んだ低い声が静寂を割く。
冷や汗を浮かばせた左之助が零した。
「あの目……危険すぎるぜ」
「……拙者が相手する。お主は谷殿を頼む」
左之助が評したように、ランランと輝く狂気混じりの目を見やって、剣心は息を吐き出した。予断は許されない。
「かっ……かかれぇ! やつを倒したものには5倍払ってやる!!」
「5倍!?」
「よっしゃ、もらったあ!」
破格の報酬に目が眩んだ何人かの男達が走り出す。剣は心臓が止まる思いだった。
"おいおい嘘だろ、やめろバカ、死ぬぞ!"
「てめえらやめろォッ! ここで命捨てる気か!?」
左之助と声が被った。
「ぐは……ふは、はははははぁ!!」
歪な笑い声を発しながら、黒笠が刀を振り回す。
振り回しているだけのように見える、だが、誰ひとりとして黒笠の元にたどり着くことは出来なかった。
振り回しただけのハズの刀に、全てが切り伏せられていた。おかしな術でも使ったかのように、一瞬のうちに。
「この感触……いい……」
見開いた目で、裂けんばかりに笑んだ口で、傷一つない黒笠は笑った。
「っ……」
怖気付く。思わず一歩下がった誰かの足を認めて、黒笠が目を見開いた。
「逃がさんよ!」
誰もがその目を見た。
◆
"う、わ、なんだこれ……"
剣が目の前の光景に圧倒される。
まるで時が止まったかのよう。一人も動かない、いや、動けない。
「か、からだが、動かねえ……」
誰かが言った。おそらく体が動かせなくなった原因である黒笠は、またにんまりとする。
「逃げたらダメだなあ……一度剣を抜いたら死ぬまで斬り合う……そうじゃないと楽しくないなぁ……」
うふふ、と笑う、どこか子供のような口調で話す黒笠。人を斬ってこんなにも笑って、そして今からまた殺そうとしている。異常だ。
「てめえ、何しやがったッ……!」
左之助の声だ。ずず、と地をこする音がする。誰もが動けないこの場で、一人だけ動く。
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作者名:アオ | 作成日時:2017年3月3日 17時