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その夜。
月の美しい夜だった。かち、かち、と柱時計の振り子が鳴らす音を聞きながら、剣心は大きな屋敷の部屋の壁に寄りかかっていた。
部屋の中心にはよく肥えた男がソファに座ってそわそわ辺りを見回している。
「そろそろ黒笠が予告した12時だ……! 頼むぞ! 奴を斬ってくれた者には、予告通りの金を払う!!」
ソファの後ろに控えている、10を超えるゴロツキたちを振り返って言う。
"ううん、否定するわけじゃないけど、金にものを言わせるってなんかやだなぁ"
ソファの男の言葉にがやがやと騒がしくなり始めた室内を見回しながら剣が嘆息した。
「好かねえやっちゃな」
落ち着いた低い声。左之助だ。
「……しかし、なぜおぬしまで」
「てやんでい、こんな面白いケンカ、てめえに独り占めさせっか!」
「ケンカでは無いのだが……」
剣心は苦笑する。
左之助は気にせず、緩みかけていた口元を引き結んだ。
「しかし、銃を抜かねえまま斬られちまったってのは、どういう事なんだろう」
ううむ、おそらく……そう言いかけた剣心を遮って、左之助は詰め寄る。
「剣心、お前心当たりがあるのか? もしかして、黒笠ってやつの正体にも、見当がついて……」
ボォーン……ボォーン……。
柱時計の、12時を告げる鐘の音だ。
"……"
「……」
不気味な静寂。外の方で、注意を促す声が聞こえたが、他は何も聞こえない。
"……いや、……なんだ……?"
外が少し騒がしくなった。警備の警官が慌ただしく動く音が___。
ぐあああっ!!
"悲鳴……! 剣心!"
(ああ、外からでござる……!)
ばんっ! 左之助と一緒に窓を開けるが、警官が倒れているだけだった。黒かさと思われる人物はいない。
"は、もう侵入しちゃったの!? 早くない!? 悲鳴が聞こえて5秒も経ってないのに!"
ボォーン、ボォーン。不気味な音を立て続ける柱時計。
鐘の音に混じって、悲鳴が聞こえる。
"……いまの、銃声じゃなかった!? 悲鳴の合間に……!"
心の中でこくりと頷く。気持ちを引き締め、構えをとって叫んだ。
「来るぞ! 最前列は拙者と左之で固める、他のものは後ろに続け!!」
ボォーン……ボォーン……。
鐘の音はまだ続いている。不安を掻き立てられながら、悲鳴の聞こえた扉の方へ注意する。
「…………」
10秒。
「……」
30秒。
「……こ、来ない……?」
誰かがポツリと呟いた。
それに気を許して、人相の悪い男が冷や汗を拭う。
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作者名:アオ | 作成日時:2017年3月3日 17時