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ツリ目を凶悪に歪ませて、小柄な男__べシミが、恵を見た。

なにやら雲行きが怪しい。美しい女性を悪党どもが追っている……というだけの話ではなさそうだ。

と、剣が勘ぐっていると、恵が動いた。

美しい髪をさらりと片手で払いながら、「ふんっ」と鼻を鳴らす。……先程までと違って少し、いや随分、高圧的になったというか。気が強くなったというか。とにかくタダのか弱い女でない事は十分わかった。

「……帰って観柳に伝えな。私はどんなことをしたって、絶対に、逃げ切ってみせるってね!!」

腰に手を当て、顎を上げて、べシミを見下ろすように言い放つ。背筋のピンと伸びた姿が凛々しいが、やっぱりさっきと全然違う。喋り方も性格も。

"姐御肌っぽい"

「おろ……」

ひっひっひ、と、喉のひきつるような声。空気を揺らしたのはべシミだった。片手になにやら握りしめて、笑いを含んだ声で言う。

「全く可愛いねぇ。逃げ切れると思ってるところなんざ、特に」

"大変だ剣心、事案だよ"

剣が口に手を当てて言う。それに剣心は返そうとした__が、ただならぬ気配を感じて動作を止めた。

空気が変わったのだ。

ピンと張り詰めた糸がちぎれそうな。あるいは空気を溜め込んだ風船がはち切れるような。そういう、説明出来ない緊張感。

ヒュンッ!

空気を裂く音。それが二つ、恵の両脇を通り過ぎて髪を揺らした__かと思うと。少し後ろから二人分の、低い呻き声。

「ぐあぁっ……!」

小さい暗器、だろうか。鋭いネジのような、ドリルのような武器が、男二人を襲う。足がもつれて倒れそうになる。左之助がとっさに両腕を差し出して一人支えるが、もう一人はあっけなく床に倒れ伏す。

「ギンジ! トモ!」

左之助が案じる声を出す。

"なんだ今のっ、速くて見えなかった……!"

(暗器でござる!)

べシミがまた、ひきつるように笑った。じゃらり、じゃらり、手の中のネジで遊びながら視線を徐々に下へ、下へ。

「次はこの螺旋鋲で両足を射抜く」

"ひゅーうっ、わざわざ武器の名前と形教えてくれるなんてサンキュー! バーカバーカ、それがお前の敗因だ!"

べシミが手の構えを作ったところで、剣心は恵の前へと。

ヒュンッ、ヒュンッ!

続けて放たれた螺旋鋲。剣心は、ちょうど足元にあった畳を、思いっきり、全体重をのせて叩いた。

畳がめくれ上がる。

「なにっ……!?」

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作者名:アオ | 作成日時:2017年3月3日 17時

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