【19】 ページ19
__左之助の拳が、突き出されたままでいなければ。
左之助が拳一つで男を吹っ飛ばしたと気づいて、剣がパチパチと気の抜けた拍手をした。
"……さ、さすが左之助さん……尊敬するでござる……"
(剣にその口調で喋られると違和感しか感じないでござる! )
"許して欲しいでござる!"
ふざけた会話を終わらせると、左之助の立ち上がる音が聞こえた。瞳孔の開ききった顔は、元々のつり目も相まって、修羅のように恐ろしい。
「俺ぁ今気が立ってんだ! 口の利き方に注意しなぁ!」
吹き飛ばされてグッタリした男を抱えたひょろっちい男が、体に似合わないドスの効いた声で叫んだ。
「てっ、てめえ、こんなことしてただで済むと思ってんのかよ! 俺たちゃ観柳さんの私兵団員だぜ……!」
顔中にびっしりかいた冷や汗が小物感を助長している。
こころなしか声も震えているような……。
「注意しろっつってんだァ!!」
パリィン! 左之助が全力投球したボロの茶碗が、ひょろっちい男の鼻先に当たって砕けた。剣心には骨の折れたような音も聞こえたが、彼は大丈夫だろうか。鼻血が地面にこびり付くような事にならなければいいが。
二人もろとも崩れ落ちて見えなくなったので、意識を失ったのだろう。「カンリュウさんの私兵団員」がどうたらと言っていた割には大したことないなぁ。剣は心の中で指を差して笑っておいた。
「武田観柳の、手下どもかっ……!」
「いくら左之さんでも、相手が悪いぜ……」
"カンリュウってのを知ってるの?"
「武田観柳、とは?」
剣心と剣の声が被った。
「青年実業家……とは表の顔。裏じゃ何十人と私兵を持ち、かなりあくどい商売してるって噂の、胡散くせえ野郎だ」
忌々しげな顔を隠しもせずに、左之助は恵を向いて問いかけた。
「おい、あんたアイツとどういう関係だ?」
「私は何も知らないんです、本当に……!」
__すると。
「嘘はいけねぇなぁ、高荷恵!」
心底から面白がっているような、けれどどこか芝居がかったような。低い男の声が、恵の言葉を遮った。
「っこいつ、いつの間に……!」
その声の視線を辿って玄関を向けば、いつの間にやら、小柄で特徴的なツリ目の男が、くつくつと喉を鳴らして笑っていた。
「くっくっく……いたいけな女を装って同情を買おうなんざぁ、大した女狐だ。……お前を監視してるのは、このべシミもだってことを忘れてもらっちゃ困るぜ」
17人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:アオ | 作成日時:2017年3月3日 17時