【18】 ページ18
「誰から手に入れたのか……体にいい薬だとそそのかされたらしくって……アヘンだと気づいた時には、もう」
「……」
"アヘンといえば中国ってイメージだけど、ここにもあるのか"
(……なかなか、手に入るものでもないでござるよ。それこそ裏の世界の者でもない限り……)
明るい声が響いていた長屋が、重苦しい雰囲気に包まれた。クスリの話で明るくなれという方が無理だ。仕方がない。
親しくしていた者の死に、さっぱりした左之助も顔をうつむかせる。眉間にはしわがよっていて、険しい顔だ。
それもそうだ、と、剣は思った。
◆
ガラガラガラ！
突然響いたその音に、剣心を含めた面々が顔を上げた。扉のあく音だったからだ。
「……、はぁ、はぁ、……」
女が立っていた。紫色の割烹着を身につけた、黒髪の美しい女だった。
女は息を切らしながら、瞬時に部屋に目を走らせると、剣心を見て止まった。
いや、正しくは、剣心の横の刀を見て。
「……助けて！」
女はそう叫びつつ、下駄を脱ぎすてて座敷に上がり、剣心に飛びついた。
"うおお、なんだなんだ、急展開だなぁ"
「……悪い男達に追われているの！」
「はぁ……」
兎にも角にも、事情がわからないのではどうしようもない。なにか質問しようとした矢先に、ばたばたと数人分の足音が近づくのが聞こえた。抱きつかれたままの剣心は、女が小さく震えたのを感じ取る。
ばたた！ 足音が止まった。ガラの悪い二人の男が、怒鳴り込みながら長屋に顔を出す。
「オラァ、恵ぃ！ もう逃がさねえぞ！」
女は恵というらしい。不安と恐怖でひきつった顔をして、ずり、と後退る。
不快な大声に、左之助がひとつ大きな舌打ちをして、抑えた声を絞り出した。それが怒りを抑えた声であると、付き合いの短い剣でも分かる。
「今度は野郎どもかよ……何だ、てめえら」
「うるせえ!! 俺達の用があるのはその女だ！ テメェはすっこんでろォ！」
男は空気が震えるほどの覇気をもって、左之助に怒鳴り散らした。靴も脱がずに部屋にずかずか上がり込み、恵めがけて近づいていく。
誰も何も言わない。痛いほどの静寂の中を男は進んだ。大して遠くもない距離をどんどん詰め、とうとう恵の肩に手をかける。
ぐい！ 強引に引かれる肩に恐怖をにじませ、恵が叫んだ。
「イヤぁ！」
刹那。
男が吹き飛んだ。
「ぐおぉっ……！？」
男は何が起きたかわかっていないと言わんばかりの声で悲鳴をあげた。剣も、何が起きたか分からなかった。
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作者名：アオ | 作成日時：2017年3月3日 17時
