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【17】 ページ17

艶やかな黒髪を伸ばした美しい女だった。着物の襟がはだけないように押さえて、男の怒号に顔を歪めながら走る。逃げているようだった。

いや、事実、女は男達から逃げていた。

この女、名を恵という。

「いたか!?」

「いねえ! くそっ、どこに逃げやがった、あの女!」

「……おい! いたぞ、あれだ!」

息が切れる。

「は、はっ、……!」

恵と、恵を追う男達は、だんだん人気の少ない長屋が並ぶ通りに入っていった。



「やった、2、5の半! ははは、また勝った!」

連続勝利に気分が良くなった左之助の昔馴染みは、ほか2人と顔を付き合わせて笑いながら、並べられたコインを自分の方へ引き寄せた。

「…………」

左之助、言葉もない。

「……」

"お茶うまい"

剣心と剣はまったく我関せずというように、お茶など啜っている。

「け……剣心、てめえ呑気に茶なんか啜ってんじゃねえ! コラ! まぐれでいいから一度くらい当てやがれ!」

"おー茶ーがーこーぼーれーるー!"

「そうっ、言わっ、れてもっ……」

揺さぶられつつ喋るので声が揺れる。剣などは、なら自分で予想したらいいのに、とも思うが、いかんせん伝える術がない。

「左之さん、今日はヤケに気合入ってるなぁ!」

一人が笑い混じりに言った。サイコロを投げる役の男だ。

「んん? あたぼうよっ、飴売りのヨイタにちょっとした借りがあってな。今日は利子つけて返してやろうと思ってんのよ」

それを聞いた瞬間、男三人の顔が少しばかり固くなった。誰からともなく視線を落とすが、左之助は気づかない。

「そういや、ヨイタは何してんだ? 博打と聞きゃーいつもすっ飛んでくるくせによ」

きょろきょろと頭を回すが、狭い部屋の中、この五人以外の姿は見えない。男三人の頭はますます下がった。頭と一緒に背中も曲がって、いかにも何かありました、と知らせるよう。

「……どうしたんでえ、お前ら」

三人は顔を見合わせた。サイコロを投げる役の男が、未だ手の中にあるサイコロでカラカラと遊びつつ、言った。

「……ヨイタは死にました」

「……なに?」

"死んだ? 穏やかじゃないね"

左之助は動揺しきり、サイコロを床に置いた男の胸ぐらを掴んで問いただし始めた。

「死んだ? ヨイタがか? なんで、病気か!? あの元気だけが取り柄のヨイタが!?」

胸ぐらを掴まれたまま痛ましそうに顔を歪めて、男が顔を伏せた。

「……アヘンです」

「なに?」

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作者名:アオ | 作成日時:2017年3月3日 17時

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