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古ぼけた長屋のとある一室。
チュンチュンと小鳥が鳴くのどかな昼下がりにもかかわらず、暗い室内で男五人が円を書くように座っていた。
博打である。
「剣心、今度こそ頼むぜ」
トサカのように髪の毛を逆立たせた男が神妙に言った。左之助だ。
「……5、6の半」
「よぉーし、勝負だ！」
左之助はなんの疑いもなくそれをのみこんで、勝負に出る。目の前の男が二つのサイコロを茶碗の中に投げ入れた。カラカラ、コロン。
回転が止まる。出た目は2と4、剣心の予想とは全く似ても似つかない。負けだ。
"アホらしい"
「よーし、2、4の丁！」
「…………」
左之助、言葉もない。
「左之さん、今日は調子が悪いようだな！」
嬉しげな男にうぐ、と言葉を飲み込んで、あぐらをかく。両端に突き出た膝をゆらゆらと揺らしながら、左之助は横の剣心を睨んだ。
「せっかく期待したのによぅ……飛天御剣流の読みはどうした？」
「読みは読みでも、剣術の読みは全く別物でござるよ。というかお主、博打はご法度だったのではござらんか？」
その言葉に左之助は、あぐらをかいたまま寝っ転がってニヤリと笑む。
「なぁに、博打と言ったって、仲間内で小遣い稼ぎするだけの遊びさ。それにみんな昔からのダチでよ、気のいい奴らばかりだぜ」
柄は悪そうだけどな、と続けて笑う。それに剣心のすぐ隣の男が半笑いしながら反論した。
「一言余計だぜ、左之さん！」
「どう見ても、一番悪そうなのは左之さんじゃねえか！」
"違いないね"
「それもそうでござるな」
次々に発せられる言葉にぬぐ、と不貞腐れ、当たるように剣心の首に腕を回す。
「お前も笑ってんじゃねえよ！ いいか、次当たらなかったらただじゃおかねえからな！？」
恥ずかしいのを隠すためにか、少しキツくしめられた手が首を圧迫する。感覚を共有している剣などは呻いて言葉も出ない。
"ぐぇ"
「さ、左之……うぐ」
「くそぉ、次だっ、次！」
目の前の男はその光景に苦笑いして、ふたつのサイコロを手の中で弄びはじめる。左之助のかんしゃくじみたこの行動はどうやら、珍しくもないらしい。
"じゃあ2と6とかどうよ"
(ううむ、拙者が読んでも当たらぬゆえなあ。それで行ってみるでござるか)
「では、2、6の丁で」
「今度こそ当たんだろうな！？」
その頃。
そう遠くもない距離、街の隅で、着物に割烹着をした女が走っていた。
「は、は、っは……！」
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作者名：アオ | 作成日時：2017年3月3日 17時
