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目の前の男の腕がだらんと下がる。
先ほどまでの殺気がウソのよう。なにかに神経を切られたかのように、突然に何もかもが立ち消えた。
殺気も、怒りも、気配すらも。
そしてかわりに、違う気配が顔を出す。
「っ、だー!! あっぶないなあ、もう! 危うく殺しちゃうとこだったじゃん! 殺さずなんて言っておいて、もー! もー!!」
ひどく子供のような言葉遣いだった。ぎらぎらと金の目を光らせて命を絶とうとしていた抜刀斎の顔ではなかった。
「……ちっ、おまえのせいだ。おまえが薫ちゃんをさらったりしたせいで、僕が顔出す羽目になったんだぞ、だから早く解けよ。心の一方」
ペラペラとまくし立てる目の前の男に、刃衛は開いた口が塞がらなかった。
「ははぁ……とうとう狂いでもしたのか、抜刀斎ぃ」
ごしゃっ!
なんの音かと思った。地面に押し付けられた頭、足の感触。踏みつけられたのだと、一拍遅れて理解する。
「解けっつってんだカス、四肢切り落としてダルマにすんぞ」
抜刀斎ですら考えつかないようなおぞましい案をさらりと言う。別人のようだった。抜刀斎と同じ金の目をしながら、精神は全く別物だ。誰だ、これは。
「命が惜しくないのかお前、他に類を見ない変態だな。死ね」
絶対零度だった抜刀斎よりも、さらに凍えた声。ちっ、とあからさまに舌打ちをして、顔から足が退けられた。
パキィンッ!
澄んだ音だ。聞きなれた音だ。これはそう、何度も己が出した音。
刀を折る時のあの音だ。
「ヒュっ……!!」
女の声がした。心の一方が強制的に解かれたらしい。
「ふう……これで一安心。ほんと、僕の周りの人って、どうして皆心配ばっかりかけてくれんのかな……」
ぶつくさと言いながら、折れた刀をぽいと捨てる。そのまま、女の元へ駆け寄った。
「大丈夫かい、薫ちゃん」
「げほっ、あ、……あなたっ、は」
「んー、けっこう過激な発言したから剣心の名誉のために言っとくね。剣心じゃないよ。あっでも抜刀斎でもないから安心して!」
親指を立ててニコリと笑う。
「……」
それを見て、バカバカしくなった。
両利きとはいえ、片腕を壊されて剣も満足に使えない。戦いたかった抜刀斎には完敗。人質の女も、今しがた助け出されてしまった。
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作者名:アオ | 作成日時:2017年3月3日 17時