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「喧嘩屋やめて金がねえんだよ！ みみっちいこと言うなっ」
「なによっ」
ぽいぽいとものを投げるスピードが早まる。ついに大根が剣心の頭にクリーンヒットした。
「おろっ！？」
ごん！ ごん！ 続けざまに丸太や手桶がぶつかる。
"いててて、やめっ……いてェ！"
こーん！ 最後に投げられた手桶が、玄関の方へ転がる。こつん、と、手桶が障害物に当たって止まる。
「お……お取り込み中のところ、失礼します！」
「あっ？ ……お、お前は！」
「警察署長さん！」
障害物の正体は、ちょび髭の警察署長だった。
「先日は大変ご迷惑をお掛けしました……」
律儀に剣心に頭を下げる。
"引っ捕らえろ！ って言ってたあの警察署長とは思えないなあ"
(おそらく、こっちが素なのでござろうな)
脳内で会話を終わらせて、剣心がたんこぶをこさえながら笑んだ。
「今日は何のようでござる？」
「緋村殿。今日は折り入ってお願いがあってまいりました」
「？」
◆
「これは警察の威信に関わる問題……十年の間、新聞にも情報を封じてきた事件なのです」
移動した客間で、きっちり正座した警察署長が細い目を釣り上げて、言った。
剣心一人だけが、客間の障子に寄りかかっている。
「お願いです、ある殺人鬼を倒していただきたいのです！」
署長が剣心を見る。
剣心は署長を見ない。
殺人鬼？ と誰かが零したのへ頷いて、署長は続ける。
「通称黒笠、凄腕の剣客です……この十年、やつが狙うのは政府の大物……しかも、元維新志士ばかりなのです……予告状を送り付け、警察の警備を切り崩し、まるで楽しんでいるかのように殺戮を……」
"繰り返す……と、なるほどね"
「犠牲者の中には、女子供も数知れません……」
肩を落とす署長に、弥彦がかみつく。
「そんな！ なんで拳銃で撃っちまわないんだよ！？」
「むろん、拳銃警官も毎回配備されます！ ですが、いつも銃を抜かないまま、全員が切り裂かれているのです」
「銃を抜かないまま……？」
薫が訝しげな声を出す。
その会話を聞きながら、剣心は外に目線を投げる。
重苦しい話題とは裏腹に、どこまでも快晴であった。
「その男」
いつの間にか口はカラカラに乾いていた。
「元は拙者と同じ幕末の人斬りでござろう」
明治を十年すぎても、血の色と臭いに心奪われ、人斬りがやめられない、そんな、哀れな男。
"字面だけ見ると気持ち悪いね"
(……哀れなものでござるよ)
"実感こもってる"
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作者名：アオ | 作成日時：2017年3月3日 17時
