検索窓
今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:2,425 hit

裏の鬼 ページ14

独仏国境線より帰還したヒトエを待っていた老人は相変わらず煙草を吹かしている。


「どこに行ってた。」

「友人に会いに独壱と仏蘭の国境線まで、」

「よくバレなかったな。」

「ですね、やはり僕の顔は忘れられているのかも。」


ヒトエは何故か嬉しそうに言う。

店の扉には「close」の文字がぶら下がっている。


「会えたのか?『大佐』とは。」

「会えました、彼は相も変わらない。安心しました。」

「最悪、お前は大佐に殺されていたかもしれん。少し危機感を持て。」

「分かっています。」


ヒトエが珈琲をいれ始める。

伝書鳩が飛んできてヒトエの足元に擦り寄る。

ヒヨが飼っている鳩だ。

何かあったのだろうかと足に結んである紙をそっと開く。

そこにはたった一言、「逃げて。」と書いてある。

ヒトエがつッと立ち上がる。

扉が壊れる勢いで開いた、その先に兵士の男が立っている。


「いらっしゃいませ、すみませんが本日は休業日です。」

「…この店の、マスターを…」

「店長を?」

「私だが、どうされた。」


老人が近寄ると兵士はニヤリと笑って剣を薙いだ。

ヒトエが素早く反応したおかげで老人に命の別状はない。

しかし血が流れ落ちている。

その赤い血をヒトエは絶望的な顔で見ていた。


「貴様、見たことない顔だな。名は?」


兵士がニヤニヤと剣を弄びながら聞いた。

ヒトエの表情は俯いているので全く見えない。

しかし急に顔を上げた。

兵士は驚き、すぐ顔を恐怖の色に変えた。


「私はヒトエ・W・マクスウェル。初めまして、さようなら。」


丁寧にゆっくり言うとヒトエの目はいつの間にか紫から真っ黒になっている。

何も映らない。

何も見えていない。

唯一心不乱に、

敵を貪り殺す。

その姿は正に「鬼」そのもの。


「きゃあああああ!!!」


返り血をたっぷり浴びたヒトエが店の外に出ると悲鳴が起こった。

そりゃそうか、とヒトエは1つ、深く頭を下げた。

頭を下げるに値しない、ゴミのような人間達でも、

この街に住み、敬愛する老人を好いてくれている。

それだけで良かった。


「誰か、騎士団に通報して下さい。僕は、もう、動けない。」


頭を下げたままそう言う。

誰も何も言おうとしない。


「店長を、助けて下さい。僕が嫌いでも、僕が人殺しでも、店長に罪はないんです。」


縋るような声で言う。

誰も何も動かない。


「お願いします、誰、か…」


ヒトエはそのまま、意識を失った。

鬼が目を醒ます→←大佐の歯車



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (5 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

龍巳@キチガイ - 【 】nanashiさん» こわっ、てめぇ夜道には気を付けろよこの神文才野郎 (2017年2月9日 20時) (レス) id: 3d3a9ea8a1 (このIDを非表示/違反報告)
【 】nanashi(プロフ) - 寄越せ。文才寄越せください。 (2017年2月7日 22時) (レス) id: 1572cb3dd0 (このIDを非表示/違反報告)
龍巳@キチガイ - 夜のお外だいしゅきさん» 減るわやめろ (2017年2月7日 18時) (レス) id: 3d3a9ea8a1 (このIDを非表示/違反報告)
夜のお外だいしゅき - なぜだ。なぜくれない。いいだろう別に。お前の文才はちょっとやそっとじゃあ減らないだろう (2017年2月5日 21時) (レス) id: 2500df9be3 (このIDを非表示/違反報告)
龍巳@キチガイ - 夜の空気を吸い隊さん» 名前に笑った、そして嫌だ (2017年2月5日 20時) (レス) id: 3d3a9ea8a1 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:龍巳@キチガイ | 作者ホームページ:ホームページの追加は禁じます。  
作成日時:2017年1月31日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。