歯車は今、処刑台を彩める。 (ページ2)

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時計の歯車ページ2

チッチッチッと針を刻む音が響く。

シルクハットはうっとりと自分の作った時計を見た。

壊れてしまった時計は既に直っていた。

彼は名を名乗らない者だった。

時計屋(とけいや)、と呼ばれ名乗り、本名を言わず本を読む生活をしていた。

窓を開けた、夜風が冷たい。

古びたベルが鳴る。

「…君はタイミングが悪い。」

ちらりと視線を寄越すとヒトエはにっこり笑った。

「ごめん、」

「謝るな、僕は君の謝ったときの声が大嫌いなんだ。」

「そっか。」

「正確に言うと声が気に食わない、で？何の用だ？無いなら即刻帰って頂きたい。」

時計屋は怒気を孕んだ声で圧倒する。

ヒトエは椅子に座って笑っていた。

「時計を見に来たのさ、君の時計は相も変わらず美しい。」

壁に掛けてある時計は正確に時を刻む。

ヒトエは少し楽しそうに、そして悲しそうに言った。

「悪かった、少し言いすぎたようだ。」

「いいって、僕君の謝ったときの声、嫌いだよ。」

ヒトエは椅子からゆっくりと立って時計屋の眼の前で立ち止まる。

時が止まったようにも感じた。

ヒトエは自分よりも低い背の時計屋に微笑みかけた。

「僕はいつもの君の声が好きなんだ。」

「何だその告白は、僕は男色家では無いぞ。」

「僕だってそうさ。」

ふ、と視線が絡む。

冷たい目の時計屋に暖かい目が刺さる。

溶かされているようだ、

時計屋は紅茶がたっぷりと注がれたカップを差し出した。

淡い湯気が立ち上る。

「どうせ、またくれと言うんだろ？」

「時計屋ってもしかしてエスパー？」

「君はいつも紅茶をせがむじゃないか、不味いと言いながらな。」

「あはは、ごめんって。」

注がれた紅茶はとても飲めるものではなかった。

ヒトエの舌では今日も不味いのだ。

しかしやはりこの紅茶が好きだった。

何故か？

それは誰にも分からなかった。