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ー狸 sideー
．
．
「お前もあちらのモノだろう。早う帰れ」
薄い膜が、徐々に溶けていく最中
人間が顔をこちらに向けた。
顔色が良くないように見えた。
「…動けないのか？」
ただ、腰が抜けていただけだったんだがな。
「うーむ」
そんな間抜けだと思われたくなくて塞ぎ込んでおったら、人間が布を儂の前に広げて見せた。
「のれ。1日だけなら泊めてやろう」
．
．
．
なんと阿呆であろうかと思うた。
仮に助けられたとはいえ、
仮にこの人間が祓う力を持っているとはいえ、
妖が人間を襲うことは変わらない。
儂を舐めておるのか
はたまた、自信があるのか。
どちらにせよ、腹が立った。
寝首をかいて喰うてやろう。
そう思いながら布の上に乗った儂の顔だけ出すように包み込んで
人間は両腕で抱え込んで、歩き始めた。
なんと間抜けな人間だ。
もしも儂が、今、体を捻ってお主の心臓にかぶりついたらどうするのだ。
「私の名はタロウという。
お前、名はあるか？」
なんと愚かな人間だ。
もしも儂が、名を操る妖であったならば
すでに生きた人形として操られる
狸「名は、ない」
太郎「…無いのか」
狸「妖で名を持つモノは力があるもののみ。
儂には、そんな力など……」
儂も馬鹿だ。
こんな、こんな人間相手に身の上話を…
太郎「なら、私が名をつけよう」
上から、先ほどとはうって変わって
タロウとやらは明るい声で、まるで、簡単なことをするかのように言いのけた。
太郎「
狸「…なんだ、その長い名は。
というか、勝手につけるな！」
太郎「トウリ」
狸「だから！」
太郎「私は、力だけが全てではないと思う」
時が、止まったかのように感じた。
周りの音も、儂の耳には入ってこなかった。
太郎「名は、その者の存在を認識させる大切なモノだ。私は、偶然ではあるけども、出逢ったモノを《お前》だとか《アイツ》だとか
そんなあやふやなものにしたくない」
この世に生まれたその時から
《お前》《オイ》《そこの奴》としか
呼ばれたことがなかった儂は、
泣いていた。
声をあげ、泣き叫んでいた。
もう何年、生きていたかも覚えていなかったが
初めて、儂を、認められた気がした。
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作者名：じぇりー x他1人 | 作成日時：2015年3月6日 15時
