間一髪。 ページ27
side無し
響いた泣き声、それは─────紛れもなく、響のものだった。
響「ふぎゃ、ふぎゃああああッ!!」
使用人「あらあら坊っちゃま、どうしたんです?もう寝ましょ、ね?」
途端に使用人の興味がそちらへと向き、布団の隙間から響を抱き上げあやす使用人の姿が見える。
まだだ、まだ油断してはいけない。
恐怖により漏れ出そうになる声を噛み殺しながら、使用人が去るのを待つ。
一体どれほどの時間が経っただろうか。
気付けば使用人は立ち去っていて、後には座ったままうとうとしている響だけが残された。
『…………っ』
使用人が立ち去った後も、長い長い静寂を経て漸く息をつく事が出来た。
随分息を止めていたらしい、長く息を吐いて少し肺が痛くなった。
身体全体がどくどくと脈打つ。
じんじんと痛いようで暖かい。
取り出しかけた簪を懐へとしまい、のそのそと這い出る。
響「!」
途端にパチッ!と鏡花の目の色に似た浅葱色の瞳が澄み渡ったように開かれる。
嬉しそうに近寄ってくる響を眺め、その頭を撫でながらポツリと一つ呟く。
『……もしかして、助けてくれたの?』
響「?」
不思議そうに首を傾げる響。
恐らく、かなりの確率で気のせいという言葉が当て嵌るだろう。
実際まだ一歳に満たない子供がタイミングなど分かる筈が無い。
しかし……鏡花は、その行動が自分を助けてくれたと思わずにはいられなかったのだ。
実際、あれが無かったらまず間違いなく鏡花は見つかっていた。
下手したら殺されていたのかもしれない。
それでも、あの行動が─────確かに、鏡花の命を救ったのだ。
『……っ…。
…………?』
いざ思い返してみたら、何だか胸の辺りがほわほわする気がした。
いつも胸に渦巻くどんよりとしたものが少し緩和される感じがして、しかし慣れない感覚に戸惑ってしまう。
何だか居心地が悪い。
実の所────それは確かに、【嬉しい】という感情だった。
喜怒哀楽の喜の部分が抜けていた。
しかし、今はそれがパズルのピースのようにカチッとハマった。
不思議な感覚がする胸の辺りを握り締めながら、長い前髪の下に隠された小さな眉毛をキュッと顰めた。
けれど────不思議と、不快では無かった。
寧ろ、新しいものを発見した事による快感がゾワゾワと背中を駆け上がってくる。
跳ね回りたい欲求をグッと堪えて───ぎこちないながらも、緩やかな笑みを浮かべる。
『……ありがとう、君のおかげで助かった』
この時、彼女は確かに─────暖かい感情というものを知ったのだった。
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ルカ(プロフ) - りあてゃんさん» コメントありがとうございます!てぇてぇ姉弟…。響くんは圧倒的に鏡花ちゃん子なのに使用人と親共に未来は無い(殺意) (2021年2月23日 10時) (レス) id: 29975453d5 (このIDを非表示/違反報告)
りあてゃん - んあ”ぁぁぁ.....響くん良い子!鏡花ちゃんに似てめっちゃ良い子!!もう使用人とか親とかは全力で滅んでくれ、お前らは二人の幸せを邪魔する存在でしかない(( (2021年2月21日 11時) (レス) id: 15f52de452 (このIDを非表示/違反報告)
ルカ(プロフ) - ゆゆさん» コメントありがとうございます!この家はクソ野郎しかいない……(おい)いつもありがとうございます! (2021年2月17日 22時) (レス) id: 29975453d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ(プロフ) - 立場を利用してキョウカをいじめる使用人が何よりもムカつきます。旦那サマがやってることは決して良いことではないけど、使用人のやってることはそれ以前に卑怯だと思うんです。 (2021年2月17日 18時) (レス) id: 7c7117969d (このIDを非表示/違反報告)
ルカ(プロフ) - あなたさん» ありがとうございます!お待たせしてすみません!これからも読んでくれると嬉しいです!! (2021年2月17日 7時) (レス) id: 29975453d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルカ | 作成日時:2021年1月31日 23時