ラ・グランディネ (ページ32)

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「店開いたら教えてよ。俺結構ケーキ好きだからさ」
「……そうだな」

お互いに、守れる約束でないことは分かっている。

部隊をやめた者と、部隊に所属している者。

交流が続いているとなると、処分を受けることがある。

それに、連絡を取る手段はほとんどない。

「戦闘員」は一歩外に出ると「殺人者」に名前を変える。

戦闘員が罪を問われることはないし、やめてもそのまま社会に復帰することはできる。

その点はきちんと保障されているし、いつでも部隊をやめることができるのだ。

ただ、部隊関連のことには全て守秘義務が課せられている。

何があったかは話せないし、誰と仲間だったのかも話せない。

全て、なかったことにしなくてはいけない。

「俺、現場に出れてなかったんだけど。菊池って、何で死んだの」
「班長？」
「うん」

野村がやめちゃったら聞ける人いなくなるし、と呟く。

「投げられたナイフが運悪く心臓に刺さった。即死だよ」

思い出したのか、野村が顔をしかめた。

「もう、仲間を失うのはごめんだ」

気持ちは痛いほど分かる。

「いつやめるの？」
「明日」
「……そっか」

止められるだけの権限は大野にはない。

うつむいて唇を噛んでいたが、野村を見上げて笑った。

「元気でね。今までありがとう」
「あぁ。こちらこそ、今までありがとう」
「俺、野村のこと忘れない。でも」

俺のことは忘れて、と呟く。

「……忘れられるわけねえじゃん。何年一緒にやってきたと」
「忘れなきゃいけないんだよ。部隊をやめるって、そういうことなんだから」

野村は苦笑した。

「全部、ここでのことは忘れて、俺のことも、みんなのことも、全部」
「泣くなって」
「泣いてないもん！」

というものの、誰がどう見ても大野は泣いている。

それだけ、野村と過ごしてきた年数は長かった。

もしかしたら、今の班員よりも長かったのではないかというくらい。

「大野、今までお世話になったな。置いていくことになったのは心残りだけど」
「どうせ、俺のこと心残りなんじゃん。じゃあやめなきゃいいのに」
「そう言うなよ」

涙を拭いた大野。

「……ありがと。本当に」

顔を隠したまま部屋を出て行こうとする大野。

「大野」
「最後に会えてよかったよ。本当は笑ってお別れしたかったけど」

ダメだったね、と泣き顔のまま振り返った。

「さよなら、だね」
「……あぁ」

ばいばい、と手を振る。

野村もそれに手を振り返した。