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「あまり、他の人から言われたこと気にしない方がいいよ。智くんは智くんだから」
目を丸くした大野。
「智くんって呼ぶの珍しいね」
「……口から出てた」
大野があはは、と笑う。
「智くんだって、懐かしいなあ。久々に聞いたよ」
「うん、俺も久々に言った気がする」
「智くんって普段から呼んでくれてもいいのに」
「だって班長だから」
「関係ないって、俺なんて班長だけど班長じゃないようなものなんだし」
落ちこぼれ班長だからさ、と自嘲している。
複雑な顔をした櫻井。
大野が自分を卑下するような発言は、櫻井の前でしかしない。
「そんなこと言わないでよ、あなたすごい人なんだから」
「ありがとね。でも俺はポンコツだよ」
はあ、とため息をついている。
「……だいぶ、言われたことが堪えてるみたい。ごめん翔くん」
「他にも何か言われた？」
ううん、と首を振る。
「言われたとしても、言わないよ」
さっきのも聞かなかったことにして、なんて言うから櫻井は顔をしかめた。
「そんなに俺、信頼ない？」
「違うよ」
「だったら言ってよ。一人で抱えないでよ」
「違うんだよ」
「じゃあ何で」
悲しそうに笑う大野。
「信頼してるから、言えないこともあるんだよ。ごめんね」
その顔があまりにも苦しそうで、思わず櫻井も黙ってしまう。
この人はいつもそうだ。
上や周りと上手くいっていないことは知っている。
それが、自分たちが原因であることも。
その全ての間に立って、班長として一人で、口下手な大野が戦っているのも知っている。
知っているのに。
「しょーくん、そんな顔すんな」
櫻井の顔に手を伸ばした大野。
ひた、と右手で櫻井の頬に触れる。
「そんな顔、って」
「苦しそうな顔してる。そんな顔してる人に言えねえよ」
顔を歪めた櫻井。
「苦しそうなの、智くんじゃん……」
櫻井の言葉に小さく笑う。
するりと櫻井の頬を撫でて、手を戻した。
「俺は平気。しょーくんが心配なんだよ」
この人がこう、というのはよく知っている。
昔から、自分のことより人のことを気にする人だった。
「心配な人に心配なんてされたくない」
「ありゃ、俺心配されてたのか。大丈夫だって」
けらけら笑っている。
鈍感なフリをしているが、敏感な人なのは分かっている。
何が嘘で、何が本当かも。
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作者名：翠霞チサ
| 作成日時：2018年12月9日 2時
