報われないもの ページ25
「元気にしてたか?」
「うん・・今コーヒー淹れるから」
彼に会うのは
一ヶ月ぶりくらいだろうか。
私が彼に会えるのは
一ヶ月に一度か二度。
時には月に一度だって会えない時もある。
私の部屋にいる彼に意識を張り巡らせながら
キッチンでマグカップを
心許ない手つきで取り出した。
・
「疲れたよ、今日も」
そう言って腕時計を外しながら
こちらに来る彼に
私の心臓は煩いほどに音を立てる。
「会いたかった。」
そう言ってぎゅっと後ろから
抱きしめられて
私の心臓はより一層高鳴った。
・
ソンジ・・・っ
「私も・・
すごく会いたかった。」
・
ずっと我慢してた気持ちが
抱きしめられた瞬間に弾ける。
私はずっと待ってた。彼にただ会える日を。
・
彼の背中に腕を回して
好きだって
心の中で唱える。
絶対に報われないと分かっているのに。
ソンジは
いつしか私の知らない人と婚約をした。
・
韓国へ来てまだこの土地にも
仕事にも慣れなかった時に出会って
そしてすぐに私は彼に恋をした。
・
そして彼も
私を愛してくれた。
・
恋人同士になってから
この先もずっと一緒だって
そう思ってた。
けど
そんな幸せは長くは続かなかった。
気がつけば理由も聞けないまま
彼は婚約することになって
諦めるしかないと思った時
”それでも君に会いたい”
そう言ったソンジに
私は迷わず頷いた。
彼に会えなくなるって選択肢は
まるで無かったかのように。
他の誰かじゃだめで
私には彼しかいないから
ソンジ以外の人を好きになんか
なれないって。
・
それから私は彼が会える時だけ
こうして私の部屋で彼と会った。
・
「A・・会いたかったよとても・・」
そう言って頬に彼の手が触れて
見つめ合うと
ゆっくりと唇を重ねた
・
時間が経つたびに
もうやめようって
いつも思うのに
こうして彼に触れると
そんな思いが嘘のように
彼が好きって
それだけが全てになっていく。
・
そして
深い深い暗闇の中にいるように
私たちは
決して見つからないように
何度も体を重ね合った。
・
”愛してる”
お互いにそう囁きあって
今だけは真実でありますようにって
心の中で私はいつも涙を流してた。
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作者名:菫 | 作成日時:2015年1月6日 1時