仲間へ ページ9
部屋は水を打ったように静まり返った。シャドウは苦い表情のままAを見下ろしている。
「あのとき見たフィルム。あれ、おかしいと思ってたんだ」
Aの目がシャドウの背後に向けられる。操作する者のいない映写機は、役目を忘れたように佇んでいた。
「会話が不自然なところで途切れたり、映像がいきなり飛んだりしてたよね」
これを見抜かれるのは、きっとシャドウにとって不快だろう。
「あんたは映像を意図的に編集した。自分の思い通りに、認知を変えようとした」
『……黙れ』
「笑っちゃうよね。わざわざ都合の悪いところだけ見て」
『黙れ』
「手が届かないなんて思い込みだ。探偵社のみんなはずっと太宰さんの近くにいたのに、あんたはそれを認めなかった」
『黙れ!』
シャドウの手の中に光が集まり始める。先ほどのような猶予はなく、攻撃はすぐにAを狙った。正確さを欠いたそれを難なく避け、Aは太宰の方へ振り返った。
「太宰さん」
鳶色の瞳が不安に揺れている。太宰のあんな表情を見るのは、Aにとって初めてのことだ。
「ちゃんと『本当』を見てください。歪んだ認知とか、過去の出来事ばかりじゃなくて。苦しくなったり、信じられなくなったりするかもしれないけど」
そこまで言って、Aは笑った。フィルムの映像に映っていた笑顔が今、太宰に向けられている。
「私達は側にいますから」
何でもないことのように告げられた言葉は、太宰の心に真っ直ぐ届いた。伸ばされるだけの手は、Aにしっかりと握り返されたのだった。
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はつらい(プロフ) - 優曇華院咲月さん» ありがとうございます。面白いと言っていただけて嬉しいです! (2021年2月4日 23時) (レス) id: f8150a8d0e (このIDを非表示/違反報告)
優曇華院咲月(プロフ) - 何でこんなに面白いのに伸びないんだ!?…とても面白かったです。 (2021年2月4日 9時) (レス) id: 6169f467e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はつらい | 作成日時:2020年6月3日 19時