陽だまりに溢れて２ (ページ38)

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覚悟の話・１８ページ38

赤side

照史達のところへ戻る途中、ちょうど個室から出て来た女将さんとすれ違った。

「どうだった？あの人全然変わっとらんでしょ？」

赤「うん、変わっとらんね。…もう少ししたら残りのヤツらも着くと思うから。」

「ふふっ、分かったわ。」

さっき望からもメールが来て、仕事終わって今こっちに向かっとるみたいやし、少し遅れたくらいで全員揃って始められそうやな。

「あ、大ちゃん？」

再び呼び止められ、その場で振り向くと小さい頃からよく知る笑顔ではなく、代わりに真剣な顔つきでこちらを向いていた。

「なんや事情は知らへんけど、今日は大ちゃんにとって大切な日なんやろ？」

赤「うん…」

「じゃあ、気張らんといけないんやね。なら、私らもうんと美味しい料理出さんとね！」

女将さんはそう言って俺の背中をぽんっと叩くと、入口の方へと向かって行った。

家族でも何でもない久しぶりに連絡を寄越したただの娘の幼馴染の為に、事情も聞かんとわざわざ定休日に貸切の張り紙までして店開けてくれて。

その心遣いと優しさに感謝し、あいつとそっくりなその背中に向かって深く頭を下げた。

赤「ごめん。お待たせ。」

個室に戻ると普段の楽屋の賑やかさが嘘みたいに静かで、自分らから呼び出したくせにこの静寂が妙に怖い。

なんとなく流星の隣に座ると、携帯をいじる手を止め俺の顔を見るなりふっと鼻で笑われた。

反射的にムッとした顔をすると、それに対してもまだ笑いよる。

青「緊張し過ぎやろ。メンバーやん」

赤「……当たり前やろ」

メンバーやから緊張すんねん。

女将さんからは気張れと言われ、流星からは緊張し過ぎやと言われ、どちらも分んねんけどその塩梅が難しい。

橙「しげさぁ、望のスケジュール変更になっとったやん。結構遅れそうなんかな。なんか知っとる？」

赤「あ、さっきメール来ててな、仕事終わったって。淳太と同じくらいの時間に着くんちゃうかな。」

それよりも、神ちゃんどうしたんやろ…

つい１時間前に電話で話していたはずなのに、未だに姿を見せない事に不安だけが膨らんでくる。

神ちゃんに限って来ないなんてことは無いとは思うねんけど…

そんな事を考えていると、廊下から女将さんの話し声と複数人の足音が聞こえ、すぐに襖が開けられた。

淳太の後ろに立つ神ちゃんの姿に安堵したと同時にスーツ姿の望に目が行き、思わずその手を掴んで廊下へ出た。