◆昨日と明日・4 ページ4
桃side
夏休み明け最初の土曜日、メンバーだけでの雑誌撮影の仕事なのに今朝からどうにも気持ちがザワザワする。
理由は不明だが原因となっている人物ははっきりとしていて、そいつは今、神ちゃんと仲良く肩を組み合って声を出して笑っている。
二人の様子をパイプ椅子に座って眺めながら思う。
俺はあいつの何にそんなに引っかかっとるんやろうって。
数日前、カフェでしげの姿を見かけてからというものの、関係があるのか無いのかどうも不調が続いている。
小テストで赤点を取ったり体育の授業中にコケて膝を擦り剥いたり、
昨日に至っては、放課後に他校の女子から告白を受け丁重にお断りしたつもりだったのだが大泣きされ、通りすがりの人達からの注目の的となってしまった。
仕事に支障を出す前に調子取り戻さんと…
そう思いながらもふとした瞬間に頭によぎるのは決まってあの日見たしげの表情で。
もう、何なんや……
「そうそう、小瀧君の初恋はいつだったの?」
桃「えっ…俺の初恋、ですか?」
「うん。小瀧君からあんまりそういうの聞いた事ないなーって思って」
撮影後に行ったインタビューももうそろそろ終わるだろうとつい気が抜けて、またあの日の事を考えていると、以前からお世話になっているライターさんから唐突にそんな事を聞かれた。
初恋の人が誰かなんて今まで何遍も考えたわ。
そんなの俺の方が知りたいっちゅーねん。
桃「えっと、その…初恋は…えーっと、幼稚園の先生です。」
頭をフル回転させ、以前雑誌で読んだ他のジュニアの話を思い出し、咄嗟にそれを真似して答えた。
「……うん、そっか。じゃあ、夏休みどうだった?」
桃「え?ほとんど舞台の公演とその稽古でした。」
「じゃあ、夏らしい思い出とかはあんまり作れなかったの?」
桃「一回だけ地元の友達とプールに行きました。…あとは、終盤に流星と遊びましたけど、買い物だけだったので夏らしくはなかったですね」
「なるほどねー。重岡くんは今高三でしょ?夏休みとはいえ受験もあるのに舞台とか仕事あって忙しかったんじゃない?」
赤「そうなんすよ。夏期講習もあったんでめっちゃ大変でした。しかも、夏休みの課題がエグくて……______ 」
ライターさんは自ら意気揚々と聞いてきた初恋の話題を広げる事なく、夏休みの思い出やら学校は楽しいかなんて親戚のおっちゃんみたいな質問を全員に一通り聞くと、呆気なく取材を終了させた。
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作者名:がうら仁歩 | 作成日時:2022年2月1日 16時