◆昨日と明日・３ ページ3
桃side
舞台も千秋楽を迎え仕事もレッスンも休みだった夏休みの終盤。
遊ぶ約束をしていたにもかかわらず誘った本人が寝坊したため待ち合わせ場所近くのファストフード店で窓の外を眺めながら時間を潰していると、偶然向かいのカフェに入店するしげの姿を見かけた。
帽子を目深に被ったしげはハイブリーチの金髪が一際目立つ青年と一緒で、窓際の席に座って楽しそうに談笑している。
ちょっとチャラそうやけど年はしげと同じくらいに見えんな…
休日にわざわざ大阪に来て、大阪の友達なんかな？
そんな風に思いながら何となく二人の様子を観察していると、さっきまで楽しそう話していたのが一転して静かな雰囲気になると、青年はしげの手を握り何か真剣に話しているようだった。
しげは困ったような表情で笑っていたが青年の表情は曇ったままで、その手を大事そうに額に当てた。
その手をすっと離すとしげだけが再び楽しそうに話し始めた。
どことなく二人の空気感に不思議なものを感じ、自分の周りにはそういった人はいないが、中学生ながらに『もしかしたらそういう事なんかな』なんて思った。
青「何じっと見とんの？」
気がつくと遅れてやってきた流星が俺の後ろに立っていた。
流星は俺の視線の先を追うと「あぁ…」と何かを察したような反応を見せた。
桃「流星、あの人知ってんの？」
青「いや…知らん。でも、何度かしげと一緒に歩いてるところは見かけたことはある。……お前、しげにも他の誰かにも絶対言うなよ、本人は隠してるみたいやねんから。」
桃「……やっぱりそうなん？」
青「本当のところは知らん。でも、本人に直接聞いていいようなもんでもないし、知られたくもないやろ。」
桃「…流星って意外と大人やね。」
青「意外と、ってのが余計やわ。そもそも一応アイドルやねんから恋愛問題はまずいやろ、色々と」
桃「それ流星が言う？」
青「望、うるさい」
俺はもう一度だけカフェの窓際に目をやった。いつの間にか二人は退店していたようで、ベテランそうな女性店員がテーブルをテキパキと片付けていた。
青「それよりはよそれ飲んで買い物行こうや」
流星が話を逸らすように氷の溶け切ったのジュースを指差した。
桃「流星が遅れたせいやんか！」
いつも一緒におるメンバーなのに、さっきのしげは何だか別人みたいに見えて、その表情の一つ一つが妙に気になり、その後はあの二人の姿が頭から離れなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 638人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：がうら仁歩 | 作成日時：2022年2月1日 16時
