◆昨日と明日・15 ページ15
桃side
赤「だから何回言えば分かるん?関係者以外にスタジオの場所は教えられへんの!…え、今大阪おんの?おまっ…あー、うん。分かった。…その辺りで待ってて。近く着いたらまた連絡するから。…おん。じゃあ、またあとでな」
話はついたのだろうか、電話を切るとしげは遠くを見つめるように視線を上に向けるとふぅと深く溜息をついた。
しげからは死角になっているだろうから、俺がこうやって盗み聞きしてるなんて、そんな事思いもしないだろう。
完全に声をかけるタイミングを見失い、どうしようかと考えあぐねていると、そのうちにしげがずりずりと頭を抱えるようにしゃがみ込んでしまった。
膝を抱えてその腕の上に額を当てる姿は、まるで迷子になってしまった小さな子どものようで、気がつくと俺はその場から動き出していて、その丸まった背中に触れていた。
赤「……小瀧?」
桃「あ…しげ、気づいたら控室におらんかったから…。あの、どうしたん、気持ち悪い?」
赤「…そっか。んー、具合悪いとかやないねん。ちょっと精神統一、かな?」
精神統一…
その電話の相手はそれほどまでにエネルギーを使うような人なんやろうか…
赤「あんさ、もしかしてさっきの聞こえてた?」
桃「…え、さっきのって?」
赤「いや、別に何でもない。…それよりも悪かったな。わざわざ探しに来てくれたんやろ?」
桃「みんなでラーメン食べに行こうかって話しててん。神ちゃんの奢りやって。しげも行くやろ?」
赤「あー…、ごめん。俺これから塾行かなあかんねん」
塾…
多分、嘘。でも、俺も盗み聞きしてたなんて本当のことは言えへんから、しげの言葉に合わすしかない。
桃「…そっか。それはしゃあないわな。受験生も大変やな」
赤「小瀧も来年になれば分かるで?」
桃「そういうもん?」
赤「そういうもんや」
しげはスッとその場に立ち上がると、ニヤリと笑って見せた。
その表情を見て、しげがいつもの調子を取り戻した事に安堵しつつも、受験というワードから、来年には大学生になるしげとまだ中学生の俺と、4つ年上のしげが初めて遠い存在に感じさせられた。
赤「さて、そろそろ戻るか。神ちゃん達待っとるんちゃう?」
桃「うん」
二人で横に並んで控室へと戻る。
真っ直ぐ前を見て歩くしげを横目で盗み見ると、俺の視線に気がついたのかしげがこちらに顔を向けた。
いつも見ているその顔を初めて可愛いと思った。
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作者名:がうら仁歩 | 作成日時:2022年2月1日 16時