＊胡蝶蘭 エーミール ページ33
「エーミール様ー、どちらにいらっしゃいますかー？」
お昼ご飯の支度が出来たから呼びに来たのだが、一向に見当たらない。
基地内に響く程大きな声で呼びかけてるつもりなのに、その気配は全くない。
ふと、窓から庭を見ると、木陰で本を読まれているエーミール様を見つけた。
窓は庭に直通しているのでそこから外に出て、駆け寄った。
「エーミール様っ…お昼の支度が出来ましたっ…」
「もうそんな時間やったん⁉すまん、急がな」
私は来た道を折り返し走った。この庭、広すぎてすごく疲れる…。
「すみません、お待たせしましたっ」
「遅いぞエーミール！」
着くなりコネシマ様に怒られていた。もっと早めに気付けばよかった…。
「じゃあ、いただこうか」
胸の前でパチンと手を合わせ、「いただきます」とおっしゃられた。
どうやらこれは日本の文化らしく、ひとらんらん様がやられていたのを皆様が真似されたらしい。
…それにしても、凄い勢いでお皿が空っぽになって行くなぁ。
「「ご馳走様でした」」
これも日本の文化で、同じく胸の前で手を合わせて言う。
その後は皆様各自ご自由な場所に行かれた。私は水やりをしに再び庭へ向かった。
「Aさん、ご一緒します」
声をかけられたのはエーミール様だった。
「本をお読みになるんですか？」
「えぇ。Aさんは？」
「花の水やりに行くんです」
なんて他愛もない話をしていると、庭に着いた。
そこには1年中四季折々の色とりどりの花が咲き誇っていて、国で1番美しい庭園としても有名である。
「よかったらお手伝いしますよ」
「えっ、でも、大切な本が濡れてしまいますよ？」
「遠くに置いておけばええかと。ね？」
それなら大丈夫かな。
…ていうか、心臓がうるさいのは気のせいだよね。
「Aさん…？」
「はっ、はい！すみません、じゃあ、お願いします」
ホースを伸ばし、先を指で潰して水が全体に行き渡るようにした。
「そういえば、このピンクの胡蝶蘭。花言葉知ってます？」
「白は『清純』ですけど、ピンクは…」
「ふふ、よかった」
私はその言葉の意味が分からなかった。
エーミール様は一輪手に取って、私の手に乗せ、その上から自分の手を重ねた。
「花言葉は『あなたを愛しています』です。受け取ってくれますか？」
急に心臓が活発に脈打ち出した。顔が熱い。
そんな風に言われたら、答えはひとつしかない。
「もちろん、受け取ります」
庭の花は、まるで私達を祝福しているかのように咲き誇っていた。
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作者名：ウィング＆テンライ | 作成日時：2018年9月23日 13時
