＊おまじない 鬱大先生 ページ19
満月の美しい夜。今日は約束の日。
時計が夜12時を告げると同時に窓を開け放った。
暖炉で暖まった部屋に一気に冷たい空気が流れ込み、私は思わず身震いした。
しかし、その寒さは途端に消え去った。
「おはよう、A」
契約を結んだ相手____鬱先生に抱きしめられたから。
「おはよう、鬱先生」
なぜ挨拶が『おはよう』なのか。それは契約を結んだ鬱先生の事情が関係している。
彼は、吸血鬼なのだ。
吸血鬼は日光に弱い為、昼間は眠りについている。つまり、人間側と昼夜が逆転しているのだ。
その為、この時間帯は向こうにとって昼間、という事になる。
ではなぜ『こんにちは』ではないのか。それはただ単に彼の起きる時間が遅い為である。
そんな事は置いといて、私が鬱先生と結んだ契約内容について。
私は世に言う『貴族』の娘。
貴族の血は市民の血よりも特殊らしく、眠っている力を覚ましやすくするんだとか。
だから今日の様な満月の夜と新月の夜に、私は血を提供しているのだ。
「やっぱり、緊張する…」
「大丈夫やって、今日こそ痛くせんから。いただきまーす」
鬱先生は私を椅子に座らせ、ボタンをいくつか外し、首にカプッと噛み付いた。
緊張のせいで血の巡りがいいのか、今日は一段と吸われるスピードが速い気がする。
でも、今日はあまり痛くなかった。ちょっと嬉しかった。
「ふぅ…ごちそーさん。今日は大丈夫？」
「はい、全然痛くなかったです！…けど、今日はいつもより量が多かった気がします」
「せやったか？多分、Aの血が美味すぎたからやな」
と言って鬱先生は不敵な笑みを浮かべた。反則でしょ、その顔…。
「そ、んな事言われても…分かりません」
「じゃあ体験してみる？」
「え？」
気付いたら私の口は塞がれていて、何やら甘いものを入れられた。
「んむっ…何これ、チョコレート？」
「せやで。僕が血ィ吸ってる時は、そんな感じや。Aの血、甘くて美味いんよ。
ちなみにそれが今日のお土産や。なかなか美味いやろ？」
契約を結ぶ際、私が鬱先生に血を提供する代わりに、何かお土産を持ってくる、という約束をしたのだ。
「はい…美味しいです」
「ハハッAにあげて正解やったわ。昨日、まじないができる奴に特別に作ってもらったんや」
「どんなおまじないですか？」
すると鬱先生は私の耳元で、
「僕の事、好きになってくれるおまじない」
と言った。
そんな言い方されたら、好きになる他ないじゃないですか…。
夜は更に更けていった。
＊花吐き病 鬱大先生→←＊血は争えない グルッペン・フューラー
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作者名：ウィング＆テンライ | 作成日時：2018年9月23日 13時
