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「思ったよりも元気そうですね」
「はは、まあ」
彼の顔に少しだけ暗い影が差す。すぐに話題をミスったことに気がついたが、自分の口は勝手に思ったことをペラペラ言葉にする。
「最近色々あったそうですね、少し心配でした。貴方の事も、彼の事も」
するとルームミラーに映っていた夏油呪術師の目が一瞬だけ泳いだ。しかし「大丈夫ですよ。私も、アイツも」と答える。
「無理してません?」
「君が気にすることじゃない」
そう言って彼は疲労の滲む笑みを私に向けた。これから任務だというのに大丈夫なのだろうか。
人伝に聞いたものだが、先日五条呪術師と夏油呪術師は星漿体の護衛任務を失敗したらしい。なにやら呪力0のフィジカルギフテッドの男が関わっていたのだとか。
この一件以来、五条呪術師は更に己の術式を極め、若くして特級の称号を得たというのは記憶に新しい。
しかし、任務の失敗よりできた心の傷はきっと学生が耐えられるようなものではないはず。五条呪術師は前向きに呪術師として一歩一歩と着実に進みだしているようだが、夏油呪術師はどうだろうか。
彼は本当に、大丈夫なのだろうか。
「隈ができていますね」
「寝ていないので」
「痩せました?」
「最近食事が喉を通らず」
「元気ないですね」
「任務続きで」
私の質問をのらりくらりとかわしていく夏油呪術師。
優しい人間はいつもそうやって辛いことも苦しいことも、本当の気持ちも笑って誤魔化す。心配をかけぬようにと必死で、頼ることに抵抗を持っている。
彼は比較的善人側の人間だ。
弱者の立場に立ち、倫理性のある考え方ができるしっかりとした人間だ。だからこそ彼にとって先日起きたことは彼の心と常識に大きな傷をつけただろう。彼の常識は一気に崩れたことだろう。
揺らいだはずだ。悩んだはずだ。
非術師は本当に呪術師が護る必要があるのか、護るに値するのか、護ってなんの意味があるのか。
苦しかったはずだ。いや、今も苦しいはずだ。その葛藤を一人ずっと抱えて耐えられるはずがない。彼はまだ、学生だぞ。
「夏油呪術師」
ほぼ無関係の外野の人間である私が彼に対してこんなことを言える資格はないのかもしれない。けれど、これだけは伝えておきたい。
「いつでも頼ってくれていいですよ」
沈黙が続いた後、彼は「どうせ今日で辞めるくせに」と鼻を鳴らした。そういえばそうだったな。
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ガシヤマ(プロフ) - れーとさん» イベントに参加させていただきありがとうございます! 自慢の作品なので神作と言ってもらえてとても嬉しいです。気が向いたら他の作品も読んでみてくださいね。 (1月31日 18時) (レス) id: d005014dc4 (このIDを非表示/違反報告)
れーと - 初コメ失礼します。どうしてこんな神作がいかにもふざけている名前のイベントに参加してくれたのか分からなかったです。イベント参加ありがとうございますorz。(絵がおじょうずなっこって) (1月31日 17時) (レス) @page34 id: 52d6184189 (このIDを非表示/違反報告)
ガシヤマ - 白うささん» お読みいただきありがとうございます! またまだ未熟なところもありますが、私の作品をもっと色んな知ってもらえるようにがんばっていきたいと思います! (1月5日 20時) (レス) id: 5392177912 (このIDを非表示/違反報告)
白うさ - あ、あれ?最後まで読んだら目から鼻水が((初コメ失礼します!!最高な作品でした!!ありがとうございます!!(?) (1月5日 20時) (レス) @page19 id: a68f5e51e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ガシヤマ | 作成日時:2024年1月1日 19時