【番外編2】 ページ30
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やっと解放された。
夏油呪術師から「降参だ……」と言わせた時、真っ先に思ったことはこれだった。
涙は出なかった。何故なら今までの疲労がそれを大きく上回ったから。
長く、苦しい戦いだった。
離反した彼の意思は想像以上に強く、頑固で、説得にはそれなりの時間を有した。そして、それなりの我慢を強いられた。
あの二年間で一番焦ったのは、痛覚があること彼に知られてしまった時だ。
彼はそれを知るや否や、拷問器具を用いて私を殺そうとした。肉体的にではなく、精神的に。
それでも私が諦めずに説得を続けることができたのは、五条呪術師の存在が大きいだろう。
もう一度、夏油呪術師と笑い合っていた彼の姿が見たい、と強く願っていた自分がいたのだ。
それを実現できたとて私には何のメリットも無い。だというのに彼の笑顔が見たいという理由だけで2年もの間苦痛に耐えて説得を続けられた自分は我ながらすごいと思う。
「補助監督さん」
夏油呪術師がにっこり笑顔で「これ、報告書です」と書類を渡してくる。
彼が私を手にかけることは今後二度とない。全ては丸くおさまった。
けれどもまだ慣れない。あの笑顔には。
いつも、彼は笑っていた。笑いながら私を水に沈め、炎で炙り、刃物で切り付けてきた。ゆっくりと、すぐ死んでしまわないように、丁寧に。
私がどうすれば苦しむかを毎日考えているようだった。
私は周囲が思っているよりも臆病な人間だ
今でも怖い。
彼の笑みを見るたびに背筋が冷えて、身体が固まる。でも誰も気づいてくれない。
気づいてくれなかったから、あの拷問は日を重ねるごとにエスカレートしていった。
「どうしました?」
「ああ、今日は朝食を抜いてきたのでお腹が空いたな、と」
怖い。
「大丈夫です?」
「はい、問題ないです」
彼の前ではどうしても強がってしまう。
弱点を知られてしまば、本当に死ぬと思った。
「ご飯奢りましょうか」
「遠慮しておきます、後で五条呪術師が拗ねそうなので」
怖い。
次はどんな殺され方をするのか、怖くて怖くて仕方がなかった。
けれども耐えた。耐えたからこそ今がある。
もう二度とあんな経験はしたくない。もしあんなことがまたあれば、今度こそ私は—————
「大丈夫?」
その瞬間、パッと世界が色を取り戻した。
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ガシヤマ(プロフ) - れーとさん» イベントに参加させていただきありがとうございます! 自慢の作品なので神作と言ってもらえてとても嬉しいです。気が向いたら他の作品も読んでみてくださいね。 (1月31日 18時) (レス) id: d005014dc4 (このIDを非表示/違反報告)
れーと - 初コメ失礼します。どうしてこんな神作がいかにもふざけている名前のイベントに参加してくれたのか分からなかったです。イベント参加ありがとうございますorz。(絵がおじょうずなっこって) (1月31日 17時) (レス) @page34 id: 52d6184189 (このIDを非表示/違反報告)
ガシヤマ - 白うささん» お読みいただきありがとうございます! またまだ未熟なところもありますが、私の作品をもっと色んな知ってもらえるようにがんばっていきたいと思います! (1月5日 20時) (レス) id: 5392177912 (このIDを非表示/違反報告)
白うさ - あ、あれ?最後まで読んだら目から鼻水が((初コメ失礼します!!最高な作品でした!!ありがとうございます!!(?) (1月5日 20時) (レス) @page19 id: a68f5e51e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ガシヤマ | 作成日時:2024年1月1日 19時