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78 地獄で星に会った様 ページ38

「……………………」

「…………」

「……だだ騙したのかァ?」

「え?」


 男はぼろぼろ泣き始め、Aは咄嗟に、後ろを守る様な体勢で。


「ふざ、巫山戯ンな!此方がどういう覚悟でやったか……ずっと嘲り笑って愉しんでいたお前等だけ!」

「そ、それは違っ……!」


 気圧され、後ろに倒れ込んだが、その体勢のまま、伝えようとする。
 男が、後ろに置かれていたバケツを掴むのが見えた。


「あの、だから」

「うぅぅうるせぇなあああァァ」


 憤慨。苛立ち。
 憎悪。怒り。


 とうとう、
 先程まで静かだった男の、

 そんな爆発した感情と共に、
 投げ付けられてきた、


 水の入ったバケツ。


「ぁ」


 あ。
 ちょっと、避けれなそう。
 や、まあ、避けなくても、重大な怪我とかはしない。

 でも、せっかく、この後の入社説明会の為に、ピッカピカの、私の制服で来たのに……。


 その時は、また、とてもゆっくりに思えた。


 爆発が起きなかった事で安堵しているのか、先程の様に。


 弧を描くバケツ。


 それは最後の、
 無意味な、抗いの様で。


 まあ、しょうがないか。


 爆弾は爆発しなかったし。
 女の子は無事だったし。
 私以外の誰も、怪我する訳ではないのなら。


 そう思って目を閉じた時。








「――済まない、作戦変更だ」








 そんな声が聞こえた。
 知っている、声。


 耳の奥深くに、
 胸の中にしっかりと刻まれた、

 絶対に忘れられないその声。


「…………………………」


 あれ。


 冷たくない。
 痛みがない。


 まるで、時が止まったよう。


 何故だろう。


「あれ……」


 震える瞳をゆっくり開けると……――


「ぁ……」


「……………」



 カランカランと、バケツが地面に転がって行った。


 Aが見たのは。


 私が見たのは。



 砂色の長外套を腕に抱え、
 黒い蓬髪、
 樹の様な高い痩身。



 知っている、人が、


 私に背を向けて。


「……………」



 太宰さんが。



「………」


 無言で、

 その水を、浴びていて。


 久し振りに会った太宰さんは、
 実に重々しい雰囲気で、私の前に立ち塞がっている。


 そして、こちらを振り向いた。


「やあAちゃん」


 笑っていた。


「元気そうだね。その制服、とっても似合ってるよ!」


 水が、滴っていた。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 太宰治 , 中原中也   
作品ジャンル:アニメ
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(プロフ) - 雪さん» 雪様、ご感想ありがとうございます! 文章が綺麗っていわれてとーっても嬉しいです! 雪様にお会い出来て良かったです! また遊びに来てください! (2023年3月29日 22時) (レス) id: 26aa10f063 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - めちゃくちゃ感動しました…語彙力ないせいで上手く言葉に出来ないのが本当に悔しい…本当に文章が綺麗で惹き込まれます…この小説と出会えてほんとうに良かったです…( ; ; )♡ (2023年3月29日 5時) (レス) @page49 id: 235d41d493 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - yuriさん» yuri様初めまして、ご感想ありがとうございます!やばいくらい泣かれましたか……うぉぉありがとうございます!夢主を幸せに出来ました、思う存分叫んでください!これからも頑張ります。ありがとうございました! (2021年4月19日 23時) (レス) id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)
yuri(プロフ) - はじめまして!初めてこの作品を読ませていただいたものです!感想を一つ2つ言いたいのですがあの泣きましたすごいもおあのやばいぐらいはい。それでもう一つ夢主ちゃん最終幸せに生きれてよかったねぇて叫びたい└(^o^)┘ではこれからも応援してます!頑張って下さい (2021年4月19日 20時) (レス) id: 2cc33a2b3d (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - シオリ様、ご読了と感想についてのご質問有難うございます!小説用Twitterはありません!既に下記文面で喜んで頂けた事が判明しているので、宜しければ此方にご感想を書いて頂くか、何もしなくても大丈夫です!お気軽に、宜しくお願い致します!此れからも頑張ります! (2020年1月20日 21時) (レス) id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年7月14日 14時

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