2 願いを叶える異能の少女は太宰治と恋をする【文スト】

44　星は呑まれず ページ4

片方の黒は電話を切り、立ち上がる。
片方の黒はその様子を見て目を閉じる。


「つーことだ。直に日は沈む。子供は家に帰る。自然の摂理って奴だ」

「中也の背が伸びないのも？」

「……………」

「う、嘘ぴょんっ」


　駄目だ、中也を見ると、誂わずにはいられない。

　まるで。
　Aちゃんを見ると、触らずにはいられないかのように。


　いや、まーったく違うけれど。


「そうだ中也、帽子を引き取りに行かないと」

「お前をやった後でな！」

「えー、もー、まーた鬼ごっこー？」


　屋上からひらりと舞い降り、施設内、全面ガラス張りの水槽の中、長い廊下を緩やかに走る太宰治。

　魚が泳ぎ、水泡は揺れ、海藻は踊り、貝は底で呼吸をし、光に照らされ、異空間に迷い込んだ様。

　中原の怒声と、足音が響き渡る位、長く長く、人々もいない。


　途中、様々なイベント毎やニュース等が貼られたコーナーを通り過ぎる。

　ほお、ふむ、ほほう。


　中々興味深いものがいくつかあった。


　Aちゃんが喜びそうなのが沢山。


　うん。
　何かを見つけると。
　何かに気付くと。


　全部彼女に報告したい。


　そんな気持ちになる。

　それに一つ、後ろの小さいのにピッタリの催し物も。


　水中トンネルを越え、太宰は勢い良く右に曲がった。


「そっちは入口と反対方向じゃねーかァ？！」


　体力の無い太宰に、もうすぐ追いつく。彼がどこかのブースへ入って行ったのが見えた。


「そこの素敵なお嬢さん、共に写真を撮ってくださいませんか！」


　青鯖の声が聞こえた。
　呑気にナンパしやがって、ナメられたもんだ！


「おいこら太宰ぃぃぃぃ！」


　そこへ一直線に入ると。

　塊に激突された。


「ぐふぁっ」


　腹から抉り出された様な声と、潮の香り、人ではない重量、そして。


「な、なんだ手前はーーー？！」


　つぶらなお目々、ぴんとした髭、分厚い皮膚に、立派な尾。


「アオッ」


　アシカのナッちゃん。
　美しいものや可愛いものが大好き。


「じゃあ飼育員のおねーさん、このお子様とナッちゃんの写真、沢山撮ってくださいね！」

「な、だ！」

45　落花流星の情→←43　星満つれば則ち虧く

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す