3 文豪グルメ 短編集【文スト】

ジョン・S 　 アップルパイ【もな様Req.】 ページ40

「わあ」


　ラヴクラフトの背より高い樹木が規則正しく並び、所々に白い花が咲いている。


「林檎だね」


　団長からの指示を待つジョンと、視界の端で家屋の木目を数えるラヴクラフト。


　と。


「あ！今日お手伝いに来て頂いた農家さんですね！ありがとうございます！」


　ん……？


　大きな声と共に、小さな影が走ってくる。


「お早い到着ですね！わ、外国の方！Aと申します、本日は宜しくお願いします！」


「…………」


　その勢いに気圧されてか、
　暇だからか、


　彼らは農作業を手伝っていた。


「意外と土壌が、肥えてる」

「……眠い」


　Aはラヴクラフトに麦藁帽子を被せ、タオルを首に巻き、髪を束ね、軍手を貸す。


　実に滑稽。


「何でこんな所で林檎作ってるの？」

「このヨコハマ林檎はですねぇ！」


　恍惚の表情で、Aは事細かくこの農園の林檎について熱弁する。


「ヨコハマにはない物を作りたくて」
「品種改良はこんな感じで」
「甘みと酸味が丁度良くて」
「親族の説得が大変で」
「そのまま出荷する他に、ジャムやチップスにもします。1番の売れっ子はこの」


　Aが出した端末の画面を見れば。


「でかっ」


　画面にはパイの塊があった。
　それは林檎型で。


「専用の道具で種や芯のみを刳り抜き、そのまま砂糖で煮出して、シナモンを塗してパイで包んで焼けば完成です！」


　キラキラと輝く黄金の果実。
　写真でも判る程香ばしい焼き上がりで、照り返している。


「ザクっと切れば、中からゴロッと林檎が出てきます。皮付きなので、その赤がとっても綺麗なんですよ」


　シャキッと食感の程良く甘い実が、サクサクのパイとハーモニーを奏でーー


「…………」


　ごくん。


　手が止まってしまう。


「秋限定のスペシャルメニューです！」


　本当に美味しそうだ。


　とても、
　気になるじゃないか。


「ふぃー、お疲れ様です！ありがとうございました！林檎達も喜んでいます！」


　僕達を、手伝いの人と信じて疑わない程のお間抜けさん。


　けれど。


「次は摘果だよね、いつ？」

「ひょわ」


　Aの頬に付いた泥を、指で取ってあげた。


「君は危なっかしいから」


　そう。


　林檎が丸ごと入ったアップルパイが、
　気になるだけだから。


「え、次も来て下さるんですか！わあ、嬉しいです！」


　だからそう。


　君のその赤い頬っぺたに、


　惹かれた訳じゃ、
　ないからね。

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