宮沢賢治 御田 ページ24
「お帰りなさいAさん!」
夜に輝く眩しい太陽。
彼の姿を見た瞬間、得も云われぬ温かさが全身を包み込んだ。
「外套掛けますね、どうぞ脱いでください」
外套を掛け、そして靴を揃えてくれて。
「Aさんの好きな香りの石鹸買っておきました、バシャバシャ洗っちゃってくださいね」
今日は彼、やけに至れり尽くせり。
「仕込んでくれた御田、しっかり煮込んでおきましたー!」
竹輪に蒟蒻、大根にはんぺん、つみれにごぼ天、餅巾着――一晩出汁を吸い、柔らかくなっていることだろう。
二人揃って、鍋の蓋を開ければ、
「ん!?」
丸ごとの馬鈴薯、丸ごとの玉子が一面を覆い尽くしていた。
美味しそうな色、だが。
「僕、Aちゃんのお手伝いをしたくて追加してみたんですが――食べてくれますか?」
そんな……上目遣いされたら!
お椀に盛られた昆布や蛸、牛筋、馬鈴薯と玉子。
箸でふわりと崩れ、香り立つ湯気とその出汁は天下一品!
「美味しい!染みるー!」
「わぁ、良かった!じゃあこのがんもと、ロールキャベツも食べてみてください!」
これやって、あれやらせて、と丁寧な彼を見て、
「なんか賢治君、あの山猫の話みたい」
「?」
首を傾げるので、
「題名忘れたけど、そういう本があってね……」
うんうんと、興味津々に彼はきく。
その、物語の粗筋。
「――で、服を脱げとか、アロマをつけろとか、注文を受け続ける中、最終的に食べられるのは自分たちだって気付いて……」
「その二人はどうなってしまうんですか?」
むむ、彼は知らないのか。
「最後は犬が助けに来てくれて、二人は無事に館を脱出するの」
「わぁ凄い!良い躾をしてたんですね!」
彼なりの着眼点。
そういえば、倒れた筈の犬は、何故生き返ったのだろう。
「えへへ……今日の僕、色々我儘でした、ごめんなさい」
少し落ち込んだ顔に。
「えーいいよ?」
「え……」
Aは両手を一杯に広げた。
「特に何でもない日だけど、今日は特別。何でも云って」
何時も頑張っている彼への、
ご褒美。
注文の多い賢治君。
今日は、どんな注文でも、
受け入れてあげよう。
それではと、彼は此方に近付き、
「……じゃあAさん、目、閉じてください」
「はーい」
云われるがまま目を閉じ、
無防備になったAに、
手を伸ばし、
顔を近づけて――
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午(プロフ) - 美紅さん» 美紅様、リクエストありがとうございました。ごめんなさい、リクエストは現在受け付けておりません。ショートケーキは苺たっぷりの物が好きですね。いつもありがとうございます。また宜しくお願いします! (2021年10月28日 20時) (レス) id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)
美紅(プロフ) - リクはショートケーキの好物をお願いします (2021年10月26日 18時) (レス) id: 2c9c8b9b13 (このIDを非表示/違反報告)
もな - ごめんなさい!!!私の不注意で…!いや私アイス大好きなんですよ〜!関係ないんですけど() (2021年6月19日 0時) (レス) id: 2d978a239f (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - もなさん» もな様、先日のリクのご感想ありがとうございました!そして新たなリクエストをありがとうございます。申し訳ありませんが、現在リクは受け付けておりません、ご了承ください。この時期はずっとアイス食べたいですね!またのご来場をお待ちしております! (2021年6月12日 20時) (レス) id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)
もな - ありがとうございました…!!とっても良かったです………!!!!!出来ればリクエストでマーク・Tさんでアイスでお願いしたいです……!出来ればお願いします!! (2021年6月12日 14時) (レス) id: 2d978a239f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:午 | 作成日時:2020年1月1日 23時